クラシカル・ホメオパシー

『Better Health Brighter Future』- 3.200億円で和解

『Better Health Brighter Future』をスローガンに掲げる、アジアで最大規模の製薬会社「武田薬品」が、アメリカで薬害責任を問われた裁判で、原告側との和解に応じたというニュースが4月の終わり頃に報道されました。

「大手製薬会社の「武田薬品工業」は、アメリカで販売した糖尿病の治療薬が原因でがんになったとして患者などから損害賠償を求められている訴訟で、原告の団体と和解に向けて合意したと発表しました。和解金などの費用は3.200億円余りに上り、日本企業が巨額の和解金などを支払った事例としては過去最大規模とみられます。」(NHKニュース, 2015-4-29

タケダは会社の立場を以下のように説明しています。「当社は、本訴訟における原告側の主張には根拠がないものと考えており、当社の法的責任を認めるものではありません。また当社は、アクトスに関し責任ある対応をしてきたと確信しており、…アクトスは良好なリスク/ベネフィット・プロファイルを有する治療薬であると確信しています。」(タケダのニュースリリース

タケダが言うように、本当に原告側の主張に根拠がないとすれば、なぜ過去最大の和解金を払う気持ちになったのか、ちょっと不思議に思われます。アクトスの「良好な」リスク/ベネフィット・プロファイルをもう少し見てみましょう。リスクはだれが負うのか?そしてベネフィットはだれがもらうのか?

タケダにとって、アクトスという糖尿病治療薬(作用物質:ピオグリタゾン)は、どうでも良いようなマイナーな商品ではなく、長年に亘り、売上の主力となった薬でした。1999年に認証され製品化されて以来、毎年売り上げを伸ばし、2010年度には売上高3.879億円、タケダの世界全売上において27%を占めました。裁判所への提出書類によりますと、1999年に認証されて以来、アクトスはタケダに160億米ドルの売り上げをもたらしました(2015年5月の為替率で計算すると、約1兆9.000億円です)。会社のベネフィットの話はここまで。

アクトスのリスクについては、9.000人の原告者が語っています(原告側の申し立ての一例)。訴訟の論点の一つは、会社側が膀胱ガンの副作用を知りながら、それを隠して(あるいは少なくとも十分報告せずに)アクトスを製品化を進めたのか。あるいは、たくさんの人がこの薬を長い間を飲み続けることによって、初めて膀胱ガンという副作用が分かるようになったのか。どちらにしても、タケダの開発研究や認証手続きに問題があったとしか考えられません。

アクトスと膀胱ガンの関係が初めて研究によって公に問題になったのは、認証されてから約11年後、2010年のことです。それを受けて、色々な国はそれぞれ違う対策を講じてきました。

フランス保健製品衛生安全庁(Afssaps)は2011年にアクトスの認証を取り消し、薬剤の回収決定を行います(PDF)。ドイツ連邦医薬品・医療機器調査局(BfArM)は「これから新しい患者に使わないように」(PDF)、そして法的健康保険において、使用可能な薬から取り下げました。アメリカは「There may be an increased chance of having bladder cancer when you take pioglitazone」という新しい安全通告を発表します(PDF)。日本では厚生労働省医薬食品局安全対策課が「使用上の注意」の改訂を指示しました(PDF)。フランスとドイツ、対して日本とアメリカの対策の差異には、タケダの政治的な影響力が国ごとに違うことが伺えます。

今回の和解金額は高額のように聞こえますが、アクトスの販売で儲けた利益と原告側の人数を考えると、「タケダにとって良い取引だ」という意見が出ています。ミシガン大学で法律や経済の観点から新薬の開発と認証プロセスを研究している Erik Gordon(エリク・ゴードン)氏が以下のように示唆しています。「タケダによるこの薬の取り扱いの不良は、大規模な懲罰的損害賠償を値する。訴えの明らかな強さを考慮すると、起訴者達はこの和解によってオファーされている金額よりも高い賠償をもらうべきだろう」(Bloomberg Business, 2015-4-28)。確かに和解金を人数で割れば、一件あたりわずかの350万円になります。しかも和解となれば、タケダがアクトスの開発と認証プロセスにおける社内でどんなミスを起こしたのか、これ以上の詳しい調査を避けることが出来ます。つまり和解金が口止め料になるのです。

余談になりますが、アクトスのトラブルで学んだのかどうかはともかく、タケダは糖尿病治療薬としてアクトスの後継になると思ったfasiglifamという新薬の開発を、2013年、肝臓薬害の問題で中止しました。「当社は、fasiglifamの投与によりもたらされる患者さんの利益が、潜在するリスクを上回ることはないという結論に達しました。このため、当社は、fasiglifamの開発を自主的に中止することを決めました」(PDF)。どうも、タケダは糖尿病治療薬との縁があまり良くないようです。

ちなみに、アクトスとその後発品(ジェネリック)は現在でも日本やアメリカで糖尿病治療薬として使われています。日本製の後発品は、作用物質の名前「ピオグリタゾン」のもとに市販されていますが、2011年以降に「添付文書」(PDF)が改訂され、以下の「使用上の注意」が含まれています。「投与開始に先立ち、患者又はその家族に膀胱癌発症のリスクを十分に説明してから投与すること」と「投与の可否を慎重に判断すること」。製薬会社にしては、なかなか良いアドバイスだと思います。自分の命と健康との付き合い方は、革新的な治療薬に任せるより、自分で慎重に判断しなければならない時代になりました。