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2016.03.31

食材汚染の問題:欧米と日本、なにが違う?

健全な食生活というのは?(2)

健全な食生活を送るうえで、有害物質で汚染された食材や食品は食べないほうがいい。いうまでもなく、誰でも分かる当たり前のことですが、一番のポイントになるのが、食品にどんな有害物質が含まれているのかを知ることです。その情報や知識がなければ、汚染された食品を避けることができません。

これから書くのは、時々話題になる、生産者の不正やミスによる食品スキャンダルや過去の有名な食品汚染事件(水俣病、イタイイタイ病、森永ヒ素事件、カネミ油症事件など)ではありません。私たちの身近なところで、毎日当たり前のように、静かで潜行的に進んでいる食品汚染の事です。

戦後の経済発展と産業化によって、生活環境における有害物質は、人類が経験したことのないスピードで広がりつつあります。そして私たちはその有害物の多くを、食べ物を通じて摂取しています。汚染根源は、大きく分けると三つあります。

① 食品加工に使われる有害物質。
② 農業、養殖漁業、畜産や養鶏に使われる有害物質。
③ 一般的な環境汚染によって食べ物に混まれている有害物質。

①の食品加工に使われる、あるいはその工程から残留する有害物質(例えば防腐剤、乳化剤、化学調味料、着色料、香料などの添加物)については、比較的に日本では問題意識が高いので、長く触れる必要はないと思います。そういうものは自分の力である程度簡単に避けられます。添加物の入っていないパンが欲しければ、ちょっと探せば、必ずあります。そしてヘキサン(hexane)などの溶媒が抽出工程に使われていない菜種油が欲しければ、昔ながらの製法(玉締め圧搾法、低温圧搾法)で絞った製品を買えばいいのです。

もっとややこしいテーマは②と③による食材汚染です。ちょっと個人的な話で始めたいと思います。

30年前に初めて日本に来たとき、非常に驚いたのは、無農薬無化学肥料の農業(有機農業)がほとんど行われておらず、オーガニック食材を扱う店も非常に少ないことでした。最近もっと驚いているのは、30年が経った今も、この状況が大きく変わっていないところです。ドイツに住めば、田舎であれ街であれ、オーガニック食材や食品は簡単に手に入ります。日本のAEONのような普通の大きなスーパーにも、充実したオーガニックコーナーがあります。一方、大きな街では、オーガニック商品と食品しか扱わない Bio-Supermarkt がびっくりするスピードで増えています。野菜、肉、パン、果物、あらゆる保存と加工食品、冷凍食品、飲料類、洗剤、化粧品など、すべてがオーガニッククオリティです。オーガニック食材しか使わないレストランも増えています。オーガニック食品の売り上げは、年々およそ10%程度上がり続け(グラフ)、作付面積も年々およそ10%の割合で増えています。国内で生産できる量ではまかないきれず、オーガニック食材の輸入も盛んです。そしてこの話はドイツに限りません。欧米全体の状況はよく似ています。

調べてみたところ、2014年の日本の有機農業の作付面積は、全農地の 0.25%(9.889 ha)。同年の欧米のデータを見てみましょう。

オーストリア:19.42%(525.521 ha)、スエーデン:16.37%(501.830 ha)スイス:12.75%(133.973 ha)、イタリア: 10.84%(1.387.913 ha)、ドイツ:6.27%(1.047.633 ha)、フランス:4.08%(1.118.844 ha)、イギリス:3.03%(521.475 ha)、カナダ:1.34%(903.948 ha)、アメリカ:0.64%(2.178.470 ha)。

次にオーガニック農産物の人口一人あたりの年間売上高を見ましょう。スイス:€ 221、スエーデン:€ 145、オーストリア:€ 127、 ドイツ:€ 96、アメリカ:€ 85、フランス:€ 73、カナダ:€ 76、 イタリア:€ 35、イギリス:€ 35。
全統計データ元のウェブサイトグラフ

日本はどうでしょうか?平均で1年間€ 7.84 をオーガニック農産物に使っています。

有機農業の発達に関する、欧米と日本との間の大きなギャップはどこから来るのでしょうか?

欧米では、自分が毎日食べているものに対する関心が大変高く、日本に比べ、市民の知識も格段に豊富です。どこから来るか、どういうふうに、どういう環境で、どういう条件のもとで作られているか。これらについて学ぶ時間が、学校のカリキュラムに含まれていますし、マスコミでも積極的に報道されています。

農薬を例にとりましょう。農薬は畑に不要と思われる雑草や虫を殺すために使われる、毒性のある薬剤です。たくさんの種類があり、世界中の集約農業に大量に使われています。農作物に残留すれば、人間の体内に入ります。貧乏で農薬を買えない、使えない国や地域を別にして、農薬の盛んな国の人々の血液や尿を検査すれば、少なくとも一つか幾つか(検査の仕方にもよります)の農薬が検出されます。ヨーロッパ、アメリカ、南米では農薬による自然の被害や人間の健康への悪影響が年々懸念されており、激しく論争されています。その反動で、農薬を減らす運動、農薬を使わない農家も増えています。日本はどうですか?2014年に厚生省が、EUレベルでで近年に全面的な使用禁止が検討されている、ネオニコチノイド系農薬の残留基準値の引き上げを検討しました。幸せにいくつかのNGO団体の反対によって、計画が凍結されました(PDF1PDF2)。「農薬と健康」についてのオススメの日本語のブックレットはココでダウンロードできます。

似たような教育レベルと経済力を持ち、そして欧米と絶えず情報交換を行っているはずの日本で、なぜ、これらの問題意識や論争が国のレベルで行われないのでしょう?なぜ、農薬や化学肥料に依存しない農業で頑張っている人たちが、日本(特に田舎)で、まだまだ変人扱いされているのでしょう?なぜ、日本の農業は前世紀の50年代に流行り始めたやり方に固着しているのでしょう?なぜもっと積極的に持続可能な未来型の農業を探りませんか?

ぼくは農業については全くの素人ですが、ドイツ人の目からすると、日本の一般人の農業に対する無関心や知識の低さは、2011年までの原子力に対するの無関心に非常に似ています。福島で大きな事故が起こるまで、原子力村のコントロールのもと、原子力の大きな(そして多くの)問題点はほとんど意識されなかったし、未来を導くエネルギー産業の発達も防げられてきました。原子力村が日本のエネルギー産業を支配してきたと同様に、日本の全農と農協が、この国の農業を時代遅れのあり方に未だに縛り付けているように見えます。

ドイツでは、農業は日本ほど一元化されておらず、たくさんの農協があります。最大手の農協「Baywa」は、30年前まで日本の農協とほぼ同じ事業内容でした。現在のBaywaは、昔の事業と並行して、ドイツのオーガニック果物の一番大きな問屋の一つになり、諸外国のグリーンエネルギー事業に投資し、そしてオーガニック農家のために、たくさんのサービスや商品を提供しています。日本の農協はどうですか?

ちなみに、日本ではアメリカと比べて1平米あたり6倍の量の農薬が使われています。必ずしも「国産」だから安心できるわけではありません。世界で日本よりたくさん農薬を使う国はただ一つ:中国。(2010年の主要国の農薬使用量推移

和食が世界遺産になったと喜んでいる日本人は多いですが、この和食の基盤である、健全な食材の作り方まで関心が及ばないのは不思議です。世界遺産指定より、汚染されていない食材を作れる環境を遺産として次世代に渡すことは、もっと大事だと僕は思うのです。