クラシカル・ホメオパシー

健全な食生活とは?(3)             この食材汚染を知っていますか?

前回のブログでは、食材汚染の例として主に農薬の話を取り上げました。食材作りと環境汚染がどれほど複雑に繋がり、また絡み合っているかについて、もう少し視野を広げつつ理解を深めてほしいので、今回のブログでは幾つかの具体例に触れていこうと思います。ここに挙げた例の共通点は、ヨーロッパと日本における認知度の違いです。ヨーロッパでは、それなりに社会教養のもつ人たちの間でよく知られ、マスコミにも頻繁に登場し、学校教育でも扱われるなど、政治的問題や社会問題として論じられているのに対して、日本では、専門家の間ではよく知られても、社会的常識、政治的なレベルでは、ほとんど取り上げられておらず、また論議もありません。

 

◆ 硝酸態窒素

集約農業は大量の化学肥料なしには成り立ちません。けれども大量の施肥は、土壌や地下水の硝酸態窒素を高める原因となります。この硝酸態窒素濃縮による汚染が、今、大きな環境問題になりつつあります。

「窒素は自然界を循環しているが、近年、農耕地への化学肥料の大量施肥や、化石燃料の過剰な利用、食料・飼料の輸出入により窒素循環のバランスが崩れてしまい、環境へ様々な悪影響を及ぼしている。….. 傾向として、茶の栽培地域では相対的に硝酸態窒素濃度が高いことがあらわれている。茶葉の生産には施肥が欠かせず、施肥基準量を超える施肥が施されている地域もあり、こうしたことが地下水中への高濃度の硝酸態窒素負荷を与えてしまう原因となっている。そのほかには、レタスやキャベツなどをはじめとした葉物の野菜やサトウキビ、果樹栽培においても多量の施肥がおこなわれているため、これらの栽培地域の地下水中の硝酸態窒素濃度も相対的に高い値を示している。さらに、畜産地域では家畜排せつ物の影響により地下水に高濃度の硝酸態窒素が含まれている場合もある。」(藪崎志穂、日本の地下水・湧水等の硝酸態窒素濃度とその特徴、PDF

硝酸態窒素を地下水や農作物を通じて摂取した場合、特に小児にとって危険な酸素欠乏症の原因になると共に、過剰摂取すると、体内で発がん物質に変わる懸念があります。環境問題にうるさいドイツでさえ、毎年何回も制限値をはるかに上回る、硝酸態窒素で汚染された水(地下水、川、湖)が見つかります。特に集約農業の盛んな地域では深刻です。農業のあり方、環境汚染と食品汚染が厳密に繋がっているのを明らかに表しているのです。

窒素問題についてもう少し詳しく知りたいなら以下の科学技術・学術政策研究所で出版された論文(PDF)と環境省が出したパンフレット(PDF)を薦めします。

 

◆ 養殖漁業、畜産や養鶏に使われる薬剤

稲、穀物、野菜果物を作る農業だけではなく、大規模で産業的に行われる養殖漁業と畜産も、健全な食生活を脅かす問題を抱えています。例えば養殖漁業、畜産や養鶏に大量に使われている薬(飼料添加物の抗生物質や成長ホルモン剤、駆虫薬、抗菌剤など)があります。養殖漁業と畜産に使われる抗生剤は、恐ろしいスピードで広がっている薬剤耐性菌の主な原因のひとつとなっており、国レベルでこの問題に取り組もうとしています(PDF)。抗生剤だけではなく、他の「食品中に残留する恐れのある医薬品成分について」神奈川県衛生研究所のパンフレットを見てください。(PDF)。

もちろんこいう有害な医薬品成分ができるだけ食品に残留しないように、出荷前の数日は、薬剤を投与してはいけないなど、いろな原則があります。けれども食品に残留しなくても、別の経路で人間の体の中に入ることができます。人間も動物も薬を摂取したときに、その成分の全てが体に吸収されるわけではありません。それどころか多くの場合は大半が吸収されず、尿と糞の中に自然排出されます。しかしそれだけでは止まりません。糞は肥料として畑に配られることになります。このように、畜産に使う薬は直接食品汚染にならなくても、環境汚染として間接的に水、食品や身体に行き渡ります。有害物質が使われることで、一旦自然界に出てしまうと、その広がりを簡単にコントロールすることはできません。産業的な養殖漁業、畜産と養鶏は、自然環境や食材の汚染の非常に大きな原因です。

 

◆ 水銀

食品汚染のなかでも、特に深刻な問題が一般環境汚染です。なぜかといえば、どう頑張っても、今や一般的な環境汚染による食品汚染を殆ど避けられない状態だからです。「養殖の魚は心配なので、原則的に天然物しか食べない」とは言え、天然の魚に有害物質が溜まることも少なくありません。例を挙げますと、先進国があらゆる産業工程で長年にわたり、そして今でもなお、無防備に環境に放出しつづけている水銀。水銀は生き物にとって極めて有毒な物質です。その水銀が近年、特に食物連鎖の上の段階にある海の生き物(例えばマグロ、鮭、クジラ)にかなりの濃度で溜まっています。そのため、日本の厚生省では10年前から妊婦に「水銀濃度が高い魚介類を偏って多量に食べることを避けて、水銀摂取量を減らすことで魚食のメリットを活かす」と注意を呼びかけています。厚生労働省の2005年の注意事項(PDF1PDF2)と2010年のパンフレット(PDF)を参照。

魚を食べるときに、水銀以外に懸念される有害物質は主に一般名で残留性有機汚染物質と呼ばれるものです(PDF)。もっと知りたいなら:「健康にはいいけど汚染が心配!? 魚は食べるべきか避けるべきか」(PDF)。

国連は世界的な水銀の使用禁止へと動いていますが、目的の達成にはまだ遠いようです。第一報として2013年、産業的水銀汚染による水俣病で世界的に有名になった熊本市において、「水俣条約」が締結されました(PDF)。

 

◆ ビスフェノールA(BPA)

水銀は昔からよく知られる有害物質ですが、もともと自然界にも存在しています。一方で、人工的に新たに作られた有害物質として最近話題になっているのが、化学工業に広く使われている、いわゆる環境ホルモンです。その一番大きな源は、我々の暮らしの影で、すごいスピードで増えているプラスチック(合成樹脂)です。近年、特に話題になっている例として、1891年に初めて合成されたビスフェノールA(BPA)を挙げましょう。BPAはエストロゲン(卵胞ホルモン)と似た作用を持っているため、最初はホルモン治療に利用できる薬として注目されましたが、もっと有力なエストロゲン作用の持つ薬が見つかったため、それ以上普及しませんでした。

その代わり、BPAは今になって、プラスチックの素材として広く使われ、生産量の一番大きい化学物質の一つになっています。2006年の世界全生産量は380万トン。EU、日本、アメリカのようなプラスチック王国において、BPAを含む物に触れない日は、ほぼ無いと言っていいでしょう。人体に入る主な回路としては、BPAを含むプラスチックの食品包装容器から食品に漏れ出し、摂取されることが知られています。この環境ホルモンが(人間を含めて)オスの繁殖力を弱め、子の生殖腺や神経の成長を妨げることが懸念されています。

BPAの危険度について、化学産業が出資する研究と独立系の科学研究とでは、その結果が著しく異なることは、容易に想像がつくことでしょう(PDF:終わらぬビスフェノールA論争)。どの国も政府の対応がまだ非常に甘いとはいえ、科学的なエビデンスを受け入れながら、少しずつより厳しい制限や利用禁止の方向に動いています。EU、米国、カナダでは、哺乳瓶へのBPA使用が禁止されています。フランスでは2016年1月から全ての食品容器にBPAの利用が禁止されました。

 

BPAと同じように、当たり前のように我々の生活環境に浸透し、避けようとしても避けられない有害物質は他にもたくさんあります。例えば特に日本にとって耳の痛い、放射能。そして未来の基幹技術として騒がれているナノテクや、遺伝子組み換え技術による新たな有害物質も増えることは間違いないでしょう。警戒を緩めてはいけません。

個人的にどう頑張っても避けることのできないもの、この社会に生きる限り浴びつづける、摂取しなければならない有害物質の場合、制限値の話が大事になってきます。制限値とは、明らかに有害な物質について、人間に害をもたらさないであろう濃度や量を決めようとする試みです。今度のブログでは、制限値の意味を考えたいと思います。