クラシカル・ホメオパシー

健全な食生活というのは?(5)          自然の食材と加工食品

今年1月のブログ「ヘルシーフードブームと健康食主義を超えて」の中で特に強調したかったのは、人間の食生活を、いわゆる栄養摂取という側面ではなく、大きな宇宙的な生命力とエネルギーを享受する循環の中で捉えなければならないということです。体という機械が故障することなく働き続けるために、ガソリンのように栄養分をたっぷり取らなければならない、という考え方では、食生活の一番表面的な、物質的な側面しか理解できません。食べることはただの栄養摂取ではなく、ある生き物(植物、動物など)の命やエネルギーを頂き、それを自分の生きるエネルギーや生命力に置き換えることです。

頂いた命を大事にするため、エネルギーをできるだけ無駄なく頂くために、簡単で大切なルールがひとつあります。生き物(あるいは生き物の実)を食材にする時、余計な加工をせず、できるだけ自然に近い形で、そして殺してから短い時間で頂くということです。言い換えると、加工食品を少なくし、できるだけ自然で新鮮な食材で作った料理を食卓に出す、それが健全な食生活の基盤です。

もちろん、すべての食材を生のまま食べたほうがいいと言うのではありません。個人的な好みにもよりますが、生食は健康の一つの泉だと思います。とはいえ、食材の調理(切る、味付ける、煮る、焼く、揚げるなど)を拒否する必要はありません。人間が手を加えることで初めて、美味しく、なおかつ安全に消化しやすい形になる食材もたくさんあります。人類の知恵に基づき、手間ひまをかけた自然な加工プロセス(醗酵、日干しなど)を経た加工食品(乾物、醤油、味噌、漬物、酒など)も、避けるべき加工食品には含みません。

健全な食生活のために減らしたほうがいい加工食品とは、自然な食材を流通しやすく、売りやすく、保存しやすく、より合理的に扱い易くするために、産業的にかなり深いレベルまで加工された食品です。いわゆる、現在のスーパーで圧倒的に多い加工食品です。最近は、果物と野菜コーナーでさえ、生野菜よりカットサラダの棚が広いスーパーもあります。加工食品は合理的、便利とはいえ、現代人の健康を脅かす大きな要因の一つです。

食材本来の形や味を変える。冷凍する。乾燥させる。構造や組織を壊して溶かす。色々な成分に分解する。抽出する。新たに組み立てる。添加物や調味料を加える、などなど。今の科学技術は、これまで無かったたくさんの加工方法を生み出しました。加工の程度はさまざまでも、一般的に言えるのは、加工の工程が進めば進むほど、徹底すればするほど、自然な食材が元来持っている良さが失われます。手を加えれば加えるほど(実は手ではなく、機械にかければかけるほど、という言い方のほうが正しい)自然な食材が持っている生き生きとした生命力、その「元気」が無くなります。

食材の「元気」という表現を、栄養学の分野ではあまり使いません。昨今の栄養士たちは、食べ物の良し悪しを物質的に測定し、分析できる栄養分で判断するからです。食物繊維、ビタミン、ミネラル、微量要素、カロリー、糖分など。

僕が言う食材の「元気」「健康度」は、もちろん物質的な中身とも関係がありますが、そこだけに集約する話ではありません。木から採った完熟のジューシーなオレンジを一個食べた後。一方、完熟オレンジ5個分の濃縮還元の缶ジュースを飲み干した後。違いを感じますか?僕はオレンジをそのまま食べたほうが、口、胃袋、体、気分の満足度と充実感が圧倒的に深まります。缶ジュースは(食物繊維を別にして)栄養分が5倍だというのに。

自然な素材を丁寧に下拵えして、美味しい料理にしてくれるレストラン。そして最近よくあるように、半調理された加工食材を仕入れて、それを美味しくアレンジしながら温め直して提供するレストラン。双方のレストランで、ほぼ同じ内容のメニューを食べても、食事の後の体や気持ちの充実感は全然違います。生き物の生命力を数字で測ることはできませんが、感じることはできます。それと似たように、食材や料理にも物質的に測れる栄養分以外の「中身」があります。それこそが元来の植物、実や動物の生命力、生き物の持つ生き生きとしたエネルギーだと思います。そのエネルギーは、人間の元気を保つ為に欠かせないものです。産業的に加工された食品には食材の物質はたっぷり入っていても、エネルギーや元気は抜けています。

元気を頂くためには、できるだけ加工度の高い加工食品を減らし、その代わりに加工が低い自然で元気のいい食材をたくさん取り入れた食生活を送ることが、一番の近道です。

加工度が低い、加工度が高いという言い方はちょっと不慣れかもしれませんので、幾つかの具体例を挙げます。剥いた後に加熱されて砂糖のシロップに泳ぐ缶詰の桃より、採りたての桃が美味しくて体に良いという話なら誰でも分かります。麺類なら、朝打った蕎麦と比べれば、カップ麺の加工度が断然に(体に悪いと言ってもいいほど)高くなります。日本でも広がりつつある朝食のシリアルにも、いろいろな加工度があります。シリアルの原型である押し麦(オーツ麦、えん麦)から、とうもろこし、玄米などの原料に砂糖や他の素材を加えて味付けし、穀物を完全に新しい形と味に仕立てたシリアル食品(コーンフレーク、グラノーラなど)まで。

食品の加工度を知りたければ、パッケージに書いてある原材料名の欄を見てください。ほとんどの場合、原材料名の数で中身の加工度がわかります。多ければ多いほど、加工度が高くなります。

半年間、冷凍保存された肉より、新鮮な肉のほうが加工度が低い。ステーキよりソーセージのほうが加工度が高い。ソーセージを缶や瓶に詰めると、加工度は益々高くなります。発酵乳製品のヨーグルトにも加工度の違いがあります。100%生乳で作られたヨーグルトもあれば、主に「乳製品」(=粉ミルク)で作られたヨーグルトもあります。生の牛乳を粉ミルクに還元して、それをまた戻してヨーグルトを作るよりは、生乳をそのままヨーグルトにしたほうが、牛乳が持っている自然の恵みが残っています。赤ん坊、その一生の健康にとって、粉ミルクという加工食品より、母乳のほうがうんといい。ジュースも一緒です。飲む寸前に絞った野菜や果物のジュースが一番。瓶や缶ジュース、濃縮還元ジュースなどは、元々の果物や野菜から遠く離れた、色と味がついたただの砂糖水です。

日本で大変人気の青汁はどうでしょうか?緑黄色野菜(主にケール)をジュースに絞り、青汁という名前で健康増進のために飲むことを初めて提案したのは、遠藤仁郎(1900-1997)という医者でした。戦争による食の貧しい40年代、病気回復のために奥さんや子供のために作ったと言われています。本人の理念は無農薬・化学肥料不使用(当時もそういうものがなかったです)の緑黄色野菜を、家で作って飲む青汁だったそうです。80年代に青汁が健康商品としてブランド化され、今年(2016年)の年間国内売上高は1000億円に近づいています。形や加工度もさまざま。絞った青汁を缶、瓶、パックに入れた液体の青汁、冷凍の青汁、粉末の青汁。しかし、生き生きとした野菜を乾いた粉末にし、袋に入れて、何週間後に再び水で液体に戻したとしても、どれほどの野菜のエネルギー、生命力が残るでしょうか。このような加工食品には、加工工程でも壊れない、もしく後からわざわざ加えた物質的栄養分しか残っていません。

粉末の青汁を飲むこと自体は悪いことではありません。ここで注意しなければならないのは、野菜が足りない不健康な食生活を送る人たちが、青汁を飲むことで、その不足を穴埋めできると思っているところです。加工食品が増え、新鮮で自然な食材が少なくなった現代人の食生活。この欠陥を新たな加工食品で補うのは、ただの悪循環です。

その悪循環をできるだけ表面化させないため、加工食品=栄養価が乏しい、というイメージを避けるため、そして売りやすさのために、多くの加工食品メーカーが「からだにいい」と思われるもの(ビタミン、ミネラルなどなど)をわざわざ食品に添加して、健康機能食品として売っています。その延長線上にサプリメント(栄養補助食品、健康補助食品)があります。日本やドイツのような食環境の非常に豊かな国では、自然で新鮮な食材で作られた美味しいものをバランス良く食べれば、栄養分を補う必要はありません。食産業に頼りきった現代の日本人の食生活を、もっと農業と直接つながる食生活に変えれば、個々の、ひいては社会全体の健康はかなり向上すると思います。つまり地域と旬の食材をもっと大事にするということです。

精製も加工の一種です。普通「精製」とは、粗製品に手を加えることによって、より良質なものにすることを意味します。けれども食材の場合には、(ほとんどの場合)正反対です。自然な食物を精製すると、元来の良さ、栄養バランス、元気が失われます。玄米と精米。全粒粉と通常の小麦粉。黒糖と白砂糖。自然で、とてもバランス良く栄養分を豊富に含んだ食材が、精製によって、栄養分に偏った貧しいものに変わる例は数え切れないほどあります。

穀物類の精白によって、植物繊維だけではなく、豊富なビタミン、ミネラル、タンパク質、そして種の中に眠る生命力の塊である胚芽も除去されます。多くの国では、穀物類が主食の基本です。しかし健康に必要な栄養の大部分を失った主食では、健康的な食生活は成り立ちません。そこで穀物の精白の時に残る廃棄物(ぬか、ふすま)とその豊かな栄養を、積極的に食生活に取り入れるように、患者に勧めることもあります。

砂糖も、健康な食生活のためにできるだけ減らすほうがいい加工食品の一つです。先進国において今、砂糖の使いすぎは大きな問題となっています。逆に、黍から砂糖を精製する時に廃棄物として残る廃糖蜜(molasses、モラセス)は、吸収しやすく大事な栄養分に富んでいます。鉄分や他のミネラルを積極的にとってほしい患者(妊婦や鉄不足による貧血で悩む人)にはよく、モラセスを定期的に摂るよう提案します。