クラシカル・ホメオパシー

健全な食生活というのは?(7)          植物を食べる? 動物を食べる?

ーー 増大する食肉消費 ーー

人間はもともと雑食動物ですが、有史以来、動物を食べない人はどの時代にも存在しました。その理由はいろいろ。動物を殺したくない気持ちから。精進。宗教的なルール。倫理。あるいはただ肉を食べられるほど豊かではないから。そして世界の人口から考えると、今の時代に肉を食べないのは、おそらく最後に挙げた理由が一番多いでしょう。

健全な食生活の観点で、「植物を食べる、動物を食べる」をわざわざを取り上げるのは、最近このバランスが困るほど崩れてきているからです。「動物」とは、この場合、動物性のあらゆる食べものを含みます:肉、魚、卵、牛乳、乳製品、動物性油脂等。「植物」はもちろん野菜だけではなく、すべての植物性の食料(穀物、豆類、果物、実、野菜、ナッツ、植物油など)として捉えます。

人は雑食動物ですから、植物も動物も美味しく食べられるし、両方から生命力や栄養をいただいています。大事なのは、その量とバランスです。昨今、世界の富裕国や高所得者層のライフスタイルで流行っている動物食は、もはや健全なバランスを失い、はるかに度を越しています。先進国(developed countries)や先進国になりつつある発展途上国(transition countries)に住んでいる人たちの動物性の食事に対する膨大な食欲は、世界人口の公平な食料供給の面から見ても、地球(自然、環境)の健康にも、そして(欠食か過食による)個人の健康にも大きなダメージを与えます。

ちょっと具体的な数字を見てみましょう。1960年から2016年まで、世界人口が約2.5倍に増えたのに対して、食肉生産量(牛、豚、鳥の屠殺重量だけを計算)が4.5倍に上がりました(グラフ 1)。日本では、1960年から2014年まで人口一人の年間の平均的な食肉の供給量は3.5kgから35kgに約10倍に増え、2010年頃からは日本人の食卓に魚介類より肉の方が多く並ぶようになりました(グラフ 2)。

食肉供給量だけを見ると、日本は世界平均(2014: 41kg)より低いですが、肉以外の動物性の食べ物、特に魚を計算に入れると、動物食のトップランナーである、他の先進国高所得国と似たように膨らんでいます(グラフ 3, 4)。発展途上国の場合、経済力が上がると、動物性の食べ物の消費が急激に上がります(グラフ 5, 6)。例えば、中国の人口一人の年間の平均的な食肉消費が1961年(4kg)から2016年(60kg以上)まで約15倍に増えました。(グラフ 7, 8

ーー 欧州で菜食を選ぶ人が増えている訳とは ーー

現代人の動物性の食事と、増大する食欲を満足させる上で、最も犠牲になるのは動物たち自身です。年々膨らんでいく欲求を満たすためには、極めて合理化、産業化された、大規模の養殖、畜産、養鶏、酪農が必要だからです。

できるだけたくさん、そしてできるだけ早く動物性の食料を生産するため、動物たちは、生き物というより産業物として扱われ、想像しがたいような残酷な環境で育てられています。もっと知りたい方には「The Tragedy of Industrial Animal Factories」という本をお勧めします。(PDF:日本語の書評:集中家畜飼養の恥ずべき現状)。

近年、ヨーロッパで(完全な、あるいはそれに近い)菜食を選ぶ人が急激的に増えているのは、普段公開されない、誰も見たくも知りたくもない、産業的養殖、畜産、養鶏の現場の映像が(生産者の反対を破って)メディアに流れたことが多いに影響しています。映像や知識は人間の行動を変える力があります。

過剰な動物食は動物を苦しめるだけではなく、人間にも、地球全体(自然、環境)にも大きな害をもたらします。極めて不自然な、そして無理を強いる環境で、動物や魚を効率よく育てるために、たくさんの薬品(ホルモン剤、抗生剤、雑菌材など)が使われています。その残留分がまた(制限値内でも)食べ物を通じて人間の体に入り、もしくは糞や尿を通じて、自然環境に散布します。

その問題についてもっと具体的に知りたい方に:
養殖魚と家畜の汚染(PDF
身近にひそむ有害物質(website)

医学だけではなく、政治的なレベルでも問題されている多剤耐性菌の広がり(PDF:年間医療費1900億円増、死亡14000人増)の一番大きな原因は、畜産における抗生剤の大量使用です。

畜産経営が盛んな地域で、最近痛切な問題になっているのが、糞の処理です。昔ながらの農業なら、家畜の糞はありがたい肥料ですが、産業的畜産になると、糞自体が薬品に汚染されているだけではなく、その量が多すぎます。畜産農業が集中しているオランダや北ドイツでは、地表水と地下水が糞の中の燐酸塩と硝酸塩によって、水源として使えないほど汚染されているところが増えています。家畜を殺すか、大量の糞の輸出先を見つけるか、苦しい選択を迫られています(PDF)。

ーー 発展途上国の飢餓を生む、動物性食物の生産 ーー

薬剤や糞による汚染と別に、大きな問題となっているのは、動物性食物の生産に必要な膨大な土地と水です。私たちはつい忘れがちですが、植物と違い、肉、魚、牛乳、卵は畑では育ちません。食料として成長するには、動物たちはたくさんの植物を食べなければなりません。畜産経営の背景には、動物の飼料産業や貿易が密接に関係します。食事をするたび、私たちは選択しています。畑でできた植物(麦、米、豆、野菜、果物など)をそのまま食べるか。あるいは植物を肉、魚、卵、牛乳などに変換した形で食べるか。肉を食べることはつまり、動物という回り道で植物を食べることです。この回り道には多くの無駄と無理が生じます。植物をストレートに(穀物、豆、実、野菜などの形で)食べるのと比較して、地球、自然環境にかかる負担は圧倒的に大きくなります。

水と土地の需要を見ましょう。
グラフ 9:農業地1エーカー(1acre=約4.000平)当たりで生産可能な、人間が利用可能なタンパク質の量(食料別)
グラフ 10:食料別、1tの重量、1kcalの熱量、1gのタンパク質を生産するに必要な水の量
グラフ 11:食料別、1kgを生産するに必要な水の量
グラフ 12:食料別、タンパク質1kgの生成に必要な水の量(牛、豚、鶏、鶏卵、大豆、蝉)
グラフ13:牛肉、豚肉、パン、じゃが芋の1kgの生産に必要な農地面積
グラフ 14:畜産物1kgの生産に必要な穀物量(牛、豚、鶏、鶏卵)

このグラフを見ると、動物性食物の生産が「植物から動物へ」という食物連鎖の人工的な延長によって、どれほど効率が悪いのか、よくわかります。動物性の食べ物は、とても贅沢なたべものです。アメリカでは収穫する穀物の80%が屠殺用動物の生産に使われています。大豆の全世界生産の90%は飼料です。現在、世界の農業地のおよそ70%が(飼料を作る畑と牧草地として)動物性食物の生産に使われています。高所得国の過剰な動物食が、莫大な飼料農業を必要とし、結果として低所得国の住民のための植物食料農業を徐々に押しのけ、世界の飢餓問題の一つの要因になっています。

ーー 自然環境を脅かす食肉生産 ーー

動物性の食べ物の生産に使われる水は、世界の水需要の約27%を占めています。そして温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を見ても、動物性の食べ物の生産が非常に大きな割合を占めています。その主な原因は、飼料の生産と貿易、動物の消化で生じるメタンガス、糞の腐熟で、世界全体の温室効果ガスの排出量の18%と査定されています。世界全体の道路輸送から生じる温室効果ガスの排出量と比べて、全世界の牛肉生産の方が大きくなっています。

ひと言でいえば、動物性の食べ物のエコロジカル・フットプリントが極めて悪いのです。この話を聞くと、食肉が悪いと考えがちですが、悪いのは肉ではなく、人の動物性食物に対する貪欲です。

過剰な動物性食物の消費が、環境、社会や個人の健康にもたらすダメージを考えて、中国政府が積極的に食肉消費を半分ぐらいに減らそうと、「少肉、低碳、更健康」(Less meat, less heat, more life)キャンペーンを始めたのをご存知ですか?その主人公の一人は、あのアーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger)です。筋肉の塊としてキャリアを積んだシュワルツェネッガーが、肉食の低減の主張者になっているのを見ると、時代の流れが変わりつつあるのを実感します。”I’m slowly getting off meat, and I can tell you, I feel fantastic!” (だんだん肉をやめてるけど、本当に素晴らしい気分だよ!)(PDF中国語ムービー英語ムービームービーメイキング

地球温暖化や環境汚染の軽減のためだけではなく、動物性食物を積極的減らすことは、病気を治すとき、そして健康を保つために、大きな役割を果たしています。特に糖尿病、心臓病、ガンのような慢性疾患の場合、患者個人のニーズに適した動物食のない、あるいは大きく減らした植物性食物を中心とした食生活は、医学的な治療の必須要素として考えていただきたいのです。

ーー 歯が教えてくれる理想的な食のバランス ーー

では健全な食生活を考えるとき、動物性と植物性の食べ物の割合をどう決めたらいいのでしょう?動物性が多すぎるとはいえ、どこまで減らすべきなのか?どんなバランスが良いのか? その答えは一つではありません。ひとりひとり、自分であった形を見出すべきだからです。

ご参考までに僕の食生活を公開しますと、20年前から肉が少しずつ少なくなって、15年前から肉や卵は食べません。牛乳は発酵された形(ヨーグルトやチーズ)でほぼ毎日、少量を食べます。魚は昔よりうんと少なくなりました、週に一、二回というペースで、天然物が手に入れば食べます。養殖の魚は食べません。動物性の食べ物が少なくった一方で、穀物、野菜、植物性、豆類とナッツが増えました。豆類とナッツが非常に大事な、良質の植物性たんぱく質と油の源泉になります。(PDFPDF

ちょっと意識的に、産業的に作られた動物性食物を避け始めると、自然に動物性食物が減ります。なぜなら良心的、昔ながらのやり方で作られた肉、卵や牛乳、天然の魚などは結構少なく、その値段も大量生産品より高いためです。おのずと食べる量や頻度が少なくなり、その代わりに食事の質が上がります。質の良い天然物をいただくと、量と頻度が減ったとしても、その美味しさ、頂ける喜びと充実感が増したというのが僕の実感です。

健全な食生活に於ける植物と動物の割合を考えるうえで、一つの良い指標があります。それは歯、です。大人には32本の歯があります。切歯8本、犬歯4本、臼歯20本。食事の時には全てを使いますが、歯のもともとの形や機能を考えると、32本の中の4本が肉食のため、20本が穀物や繊維を砕くための歯、つまり歯の1/8が肉のための歯です。

より健全な食生活のため、動物性の食べ物を減らそうという話になると、多くの人がそれに単にネガティブに捉えてしいます。健康のために、これ以上自分の好きなもの、うまいものを節制しなきゃならないのか、と。確かに断念だけなら楽しくない、そして続かないと思います。ヨーロッパでは最近、積極的に野菜を中心とする料理を作るレストランが増えています。完全なベジタリアンのメニューだけで成功する、あるいは肉料理と同時に、充実したベジタリアンのメニューを提供する高級店や、ミシュランの星付きレストランがヨーロッパ、アメリカには沢山あります。そこで腕を振るうシェフと話してみると、多くがインドや日本の伝統食文化からインスピレーションを得ているのがよくわかります。野菜、豆類と発酵食品に豊富なこの国、日本の伝統食には大きな知恵が宿っていることに、ぜひもう一度目を向けてみてください。