クラシカル・ホメオパシー

コロナ展望録。その2

間が抜けている数字

新型コロナウイルスの広がりが明らかになってから、全世界では毎日、死亡者、感染者の数が報道されています。オリンピックのメダル受賞数のランキングのように、感染者数の大小、あるいは死亡者数の大小で国や地域が並んでいます。この数字やランキングを通じて、我々に何を伝えようとするのでしょうか?コロナウイルスの危なさをアピールするものなのですか?それそれの国や地域の民度や政治家の頭の良さを表すものなのですか?

僕にとって、この数字のすべての関連、背景、コンテクストが一切抜けているので、まるで間の抜けた情報にしか見えません。そしてそういう数字を元に、自分の個人的態度、あるいは国レベルの対策を決めようとするのは、あまり賢明に見えません。間が抜けた数字を元にすれば間の抜けた対策しかとれません。

当然の話ですが、確定できる感染者数は実施されるテストの数に左右されます。テストに関するポリシーは国によって違います。たくさんのテストを施す国は、自ずとよりたくさんの感染者が見つかります。日本のようにテストを非常に消極的に行う国は、確定される感染者が当然少ないのです。

現時点の感染を確定するために、唾や痰の中でウイルスのDNAの部分が存在するかどうかを調べるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応、polymerase chain reaction)テストが使われています。あまり話題になりませんが、利用されているテストのほとんどは、通常の認証プロセスを抜きにした非常に早い商品化のため、正確さに欠けています。例えばアメリカのホワイト・ハウスの御用達のテストキットは 30-45%の不正確さの疑いがあると、5月中旬に FDA が、ニューヨーク大学の研究結果に基づいて、注意を勧告しました。
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コロナ死者の定義とその数え方についても、国によって、大きな違いがあります。死ぬ前あるいは死んだ後に陽性と検出された死者だけを数えるのか、あるいはコロナウイルスの流行の中で、コロナで亡くなった疑いのある死者も数えるのか、もしくは広義に捉えてコロナ「関連」で亡くなった人を数えるのか、定義は国によって違います。病院で死んだ人、自宅で死んだ人、施設で死んだ人の数え方も国によって、異なる法律、ルールや習慣があります。

新型コロナウイルスの流行の特徴をもっと理解するためには、感染者、死亡者の数字だけでなく、少なくとも以下のデータもみんなさんに周知すべきだと思います。PCRテストで感染陽性が確定された人のうち、何人がその感染に対して無症状か、何人が軽症で乗り越えたのか、何人が重症になってから回復したのか。そして致命的に終わった場合、亡くなった人の年齢と感染前の健康状(持病、基礎疾患)をもっと知るべきです。こういう情報なしに、新型コロナウイルスの危なさは測れません。

政治家やメディアが勝手に決められる、異なる定義、数え方や数字の公表の方法とは別に、コロナウイルスの実態は、数字では掴みにくいところがあります。というのは、感染者の大半は、その感染を無症状ないし風邪に似た軽症で乗り越えます。無症状や軽傷の感染者は病院に行かず、検査も受けないため、どの統計にもデータがあがってきません。統計に上がるのは、病院の手当てを求めて、そこでテストを受けた人たち、あるいは、クラスター追求によって発見された人たちだけです。他の感染者はPCRテストによる検査のレーダーに引っかからないのです。そしてPCRテストが今の時点で感染しているということしか確認できませんので、過去に感染したことのある人口も把握できません。言い換えれば、新型コロナウイルスの実際の広がりを把握するためにあまり役に立っていない道具です。

無症状や軽症で感染を乗り越える人の数は、過去に感染したことがあるかどうかを確定できる「抗体テスト」や数学的モデルによる推測を応用して、計算してみるほかありません。ある限られた地域の総感染者数を調べてみる研究を見ますと、実際の感染者の人数はこれまで確定感染者より何十倍も大きいようです。いくつかの例を挙げます。

これまで確定された患者数と、推測される感染者数の差について。

神戸市(5月3日)396倍(論文、4ページを参照論文)
イギリス(5月8日)150倍(論文、1ページを参照論文)
ジェネーヴ、スイス(5月6日)10倍(論文、186行から参照)
スペイン(5月13日)10倍(論文
全世界(6月7日)30倍(論文、17ページを参照)

それそれの数字の大きな差は、新型コロナウイルスの実際の広がり方がどれほど数字的に掴みにくいかを物語っています。

兎も角、新型コロナウイルスは多くの場合、静かに症状を起こさず、気がつかないままに広がっているので、どれほどロックダウン、衛生、他者との距離を離して頑張っても、全滅できるような収束はありません。好き嫌いは別にして、新たなウイルスとして、われわれと一緒にこの地球で共存することになりました。

生物学者の福岡伸一が朝日新聞のために書いた記事(PDF)の中で、ウイルスが人間を病気にさせる力によって、個人の免疫系を新しい平衡状態(バランス)を求めるようにさせ、そして「生態系全体の動的平衡を促進する」役割を果たしている、と説明しています。大変面白い記事なので、お勧めします。

「かくしてウイルスは私たち生命の不可避的な一部であるが ゆえに、それを根絶したり撲滅したりすることはできない。 私たちはこれまでも、これからもウイルスを受け入れ、共に動的平衡を生きていくしかない。」