クラシカル・ホメオパシー

Robert Bosch と ホメオパシー

‪『ボッシュ』という会社は、昔から日本でも家電と自動車機器メーカーとして広く知られています。ドイツのメジャーな企業であり、トップブランドの一つです。自動車先端技術開発の先駆者として世界中で評判を集め、日本産の車さえ、ボッシュ社の製品が入っていない例が少ないと思います。

 

(1910年のボッシュ社の広告)

 

ドイツの他ではあまり知られていないのですが、この企業の創立者、ロバート・ボッシュ(Robert Bosch 1861-1942)は、ドイツにおけるホメオパシーの一番有力な応援者の一人でした。電気工学者と実業家のボッシュが、世間で「非科学的」と批判されることもあるホメオパシーに、あれほど積極的な興味をもったのはどうしてでしょうか。実はボッシュ家では、お父さんの代から、もちろんボッシュ本人も、病気の治療のために主にホメオパシー医学を用いていました。「子供の時から、ホメオパシー以外の治療を受けたことがありません」(Ich bin vom Knabenalter an nie anders als homöo-pathisch behandelt worden)とロバート・ボッシュが60才の時に出した回想録で述べています。

ボッシュは単に自然の摂理に適う生き方を重んじただけではなく、実業家と発明家として先入観のない観察力と判断力の持ち主でもありました。ホメオパシー医学の合理性や未来性が実業家のセンスに合致したからこそ、彼はその普及に力を注ぐようになったのではないか、とも考えられます。

 

(Robert Bosch  1861-1942)

 

会社が大きくなると、ボッシュはシュトゥットガルト市にホメオパシーの病院を建てようと計画しました。1915年、ボッシュはその当時相当な大金だった300万ドイツマルクを寄付しましたが、第一世界大戦のため、病院設立はすぐに実現できませんでした。1920年に仮設のホメオパシー病院を建てる際、彼は再びスポンサーになりました。そして1925年には代替医学と西洋医学の交流と話し合いを振興するため、ヒポクラテス出版社(Hippokrates Verlag)を発足させます。

 

(Altes Robert-Bosch-Krankenhaus、旧ロバート・ボッシュ病院)

 

彼の長年の夢が叶ったのは、亡くなる2年前、1940年のことでした。4月10日、ボッシュはハーネマン通り(Hahnemannstrasse 1)にある、本人の名前を冠したロバート・ボッシュ病院(Robert-Bosch-Krankenhaus)の開会式を行うことが出来ました。下の写真を見ると、彼の笑顔からその充実感と喜びが伝わってきます。オープニングスピーチのなかで、彼は「人間が治る、そしてホメオパシーが振興する場所になって欲しい」と訴えました。

(1940年、ロバート・ボッシュ病院の薬局にて)

 

ロバート・ボッシュ病院は、ホメオパシー医学の振興に努め、それを積極的に治療に取り入れる、ドイツで最も大きな病院でした。1973年にこの病院が移転し、建て直されることになりました。新ロバート・ボッシュ病院は、ロバート・ボッシュ財団の傘下にありながら、設立者の思いから離れてしまい、ドイツの有数の病院ではありながらも、ホメオパシーは行っていません。

ボッシュのホメオパシーに対する思いが生き続けているのは、ロバート・ボッシュ財団の医学歴史研究所(Institut für Geschichte der Medizin der Robert Bosch Stiftung)です。1926年から、ボッシュは積極的にホメオパシーに関連する古い本、書類、有名なホメオパスの遺品などを集めはじめました。これから作り上げるホメオパシー博物館のコレクションにしたかったのです。第二次世界大戦が始まったため、博物館の計画はなくなりましたが、ボッシュのホメオパシーに関する書籍アーカイブは奇跡的に爆撃を逃れました。現在、このアーカイブが、世界一大きなホメオパシーの成り立ちと発展を研究するボッシュ財団の医学歴史研究所の宝物になっていて、10.000冊に近いホメオパシーの研究書と無数の資料が納められています。最も誇るのは、ロバート・ボッシュが20年代に購入した、ハーネマンが一人一人の患者の診療の内容、レメディーの処方と治療の流れを手書きで記録した55冊の病歴帳(カルテ)と、患者さんがハーネマン宛てに書いた手紙5.400通。ボッシュの夢と希望が詰まった、ホメオパシー研究と普及のための偉大な遺産です。

ロバート・ボッシュのホメオパシーの後援とロバート・ボッシュ病院の歴史について非常に詳しい研究書があります。 Thomas Faltin, Homöopathie in der Klinik. Die Geschichte der Homöopathie am Stuttgarter Robert-Bosch-Krankenhaus von 1940-1973(病院のなかのホメオパシー。シュトゥットガルトのロバート・ボッシュ病院の歴史 1940-1973), Haug Verlag, Stuttgart 2002.