クラシカル・ホメオパシー

Monthly Archives:: June 2021

コロナ展望録。その10

新型ワクチンの仕組み、その特徴について。

新型コロナウイルスに対するワクチンは、これまでとは違う新型ワクチンです。最近開発された、史上初めて人間に使われる新しいタイプのものです。まず従来のワクチンとの違いを簡単に説明します。これまでのワクチンと予防接種では、弱毒化された病原体(生ワクチン)または死滅させた病原体や病原体の一部(不活化ワクチン)を体内に注射します。体は、外から来るこの未知の侵入者に反応し、その反応によって病原体に対する特異的な免疫を獲得することができます。

新型コロナウイルスに対して、弱毒化または死滅させたウイルスを使うこうした従来型のワクチンも開発中ですが、今の時点で日本で使われているワクチンは全て、それとは異なる、全く新しい生物学的作用機序を利用しています。

それは、人間の体の細胞に病原体の一部を作らせる方法です。そのために製薬会社は、新型コロナウイルスの一部、正確には、ウイルスのスパイクタンパク質(トゲトゲタンパク質)の遺伝子を構築し、それをヒトの細胞内へと持ち込むための、いわば運び屋となる媒体に乗せます。ワクチンが筋肉に注射された後、運び屋がスパイクタンパク質の遺伝子を細胞へと運び、細胞内に侵入させます。ヒトの細胞は、持ち込まれた遺伝子の鋳型に従って、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を自分で作りはじめます。ヒトが自ら生産したこのトゲトゲタンパク質を、異質で危ないもの(抗原)として免疫系が認知し、それに対して抗体を作るのです。

目指すところは同じですが、製薬会社によって手順は少し違います。ファイザーとモデルナは、ウイルスの遺伝子をmRNA(メッセンジャーRNA)という形で作って、細胞に侵入しやすいナノリピドに包みます(mRNAワクチン)。アストラゼネカはトゲトゲタンパク質の遺伝子をDNAとして組み立てます。そして、体内で増えないように遺伝子組み換えされているアデノウイルスによって、細胞の中まで運ばせます(アデノウイルス・ベクター・ワクチン)。

従来のワクチンは、ヒトにとって異質な病原体のタンパク質(抗原)をヒトの体外で(主に動物の細胞によって)作って、それを体に注射することで、目的とする免役反応を誘発する仕組みでした。今度の新型ワクチンの作用機序は、遺伝子を注射することによって、人間の体内で細胞に抗原を作らせるやり方です。言い換えれば、人間の細胞をワクチンの工場にするのです。このような技術はこれまで、人間に対して一度も実用されたことはありませんでした。

もちろん、この新型ワクチンは人間の遺伝子の組み替えを目的とするものではありません。ただし、遺伝子組み替え技術と遺伝子導入を前提とするため、遺伝子薬の一種と言えます。なぜなら、生命の核心と考えられる、そして身体の重要な活動の圧倒的多数が行われる、生きている細胞の中の働きを弄るからです。今回のワクチン接種は、遺伝子治療の一種なのです。

EUでは、遺伝子組み替え技術に関する非常に厳しい規制があります。遺伝子組み換えの生物と植物(GMO)を放生させないように、GMOに関する実験の許可を得る段階でさえ、事前の環境リスク評価、いろいろな機構の認証や同意など、長期的で複雑な許可プロセスが義務付けられています。その規制の目的は、「熟慮に基づいたGMOの放出や制御された使用におけるリスク評価により、人間の健康と環境を高いレベルで保護」することを保障するところにあります。そのため、ヨーロッパでは、遺伝子組み替えの植物や生物がアメリカと比べて少ないのです。今回の新型ワクチン開発のために、そしてワクチン開発や使用に限ってのみ、この規制が解除されました。(PDF)

遺伝子組み換え技術を使った薬やワクチンの開発は、どういう発想と生命観に基づいているでしょうか?モデルナのワクチン開発を牽引した、主席医務官(CMO)Tal Zaks の考え方を聞いてみましょう。2017年12月開催の TEDTALKS で、モデルナが開発を目指す技術について以下のように説明しています。「私たちは実際に生命のソフトウェアをハックしています。それによって病気の予防や治療に対する考え方が変わってきています。」(YouTube、0:38 から)

これは、人間の体や生命をソフトウェアによって機能しているコンピュータとして理解する、かなり還元主義的な生命の見方です。これほど単純化された短絡的な生命の理解に基づく医薬の開発は、どんな結果をもたらすでしょうのか。何千万の進化のプロセスを経て見事に発生してきた生命の複雑で高度な仕組みを、どうしてハックする必要があるのでしょうか?そのハックによって、どんなメリット、どんなデメリットが生まれるのでしょうか?

ちなみに、モデルナ社は2010年の設立以来、認証される薬の開発に成功した例がひとつもありません。今回提供されている、モデルナ、ファイザーとアストラゼネカのワクチンは、安全性や有効性が認められて正式に認証されたワクチンではありません。その使用は、アメリカで「緊急使用許可」(EUA, Emergency Use Authorization)、ヨーロッパで「条件付き承認」(CMA, Conditional marketing authorisation)、日本で「特例認証」によって例外的に許されているだけです。

国々が新型ワクチンを正式なかたちで認証していないことに加えて、さらに考えさせられる事実があります。それは、そのワクチンの有効性や安全性を、製薬会社側も一切保証していないということです。基本的に製薬会社は、全ての製造責任を放棄するような売約契約を国との間に結んでいるだけなのです。

【ZOOM 配信のお知らせ】

*6月7日掲載のブログの改訂・再掲

第46回 『ホメオパシーを話す会』
『新型コロナワクチンについて』

日本でも、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。みなさんもご存知だと思いますが、このワクチンは、新しい技術を使うため「新型ワクチン」です。

受けると決めた人も、受けないと決めた人も、そのあとに後悔しないために大事なことがあります。まず十分な情報を得て、自分の頭で考えて、決めることです。その際、考慮しなければなりないポイントがいくつかあります。予防接種の有効性、安全性、そして必要性がどんな程度のものなのか。予防接種以外に、もっといい予防策があるかどうか。ただし現在の日本では、ワクチンに関する中立的で包括的な情報収集が難しいのが現状です。

今回の話す会では、ファイザー社、モデルナ社とアストラゼネカ社のワクチンの原理と効き方をわかりやすく説明するとともに、予防接種キャンペーンが大きく進んでいる海外のデータを参照しながら、以下のテーマについて話します。

① 今回の新型ワクチンの特徴について
②   新型ワクチンの有効性について
③ 新型ワクチンの安全性について
④ 新型ワクチンの必要性
⑤ 自然に獲得された免疫と予防接種によって誘発された
  免疫の違いについて
⑥ ワクチンと違う有効的予防について。

よりたくさんの方が聞けるように、7月3日に実施する会を、Zoomで配信します。会場に来られない方は、ぜひZoom配信を利用してください

【東京】
日時:2021年6月26日(土)15:00ー16:30
東京都港区六本木 3-17-10
【最寄駅】
東京メトロ日比谷線・都営大江戸線「六本木」駅徒歩6分
東京メトロ南北線「六本木一丁目」駅徒歩6分
*前日までご一報頂ければ、詳しい地図と部屋番号を
おくります。〈mail@ew-homeopathy.net

【京都】
日時:2021年7月3日(土)15:00ー16:30
場所:foodelco(ミーティングルーム)
京都市上京区信富町 298
【最寄駅】
地下鉄「丸太町駅」徒歩12分
京阪電車「神宮丸太町駅」徒歩10分
地下鉄「市役所前駅」徒歩15分
*参加無料、予約不要です。
*前日までにご一報頂ければ、詳しい地図をおくります。

【Zoom配信】
日時:2021年7月3日(土)15:00ー16:30
申込:以下のアドレスにメールで申し込んでください。
zoom@ew-homeopathy.net
Zoomのログインリンクを送ります。
定員:先着100名

コロナ展望録。その9

新型コロナウイルスの伝播経路について

新型コロナウイルスが発見されてから一年以上が経ちました。この新しいウイルスは世界中で広がり、他のたくさんの呼吸器系ウイルスと同様に、人類と共にある存在として自らを確立し、それなりに落ち着きました。その一方でまだ落ち着いていないのは、この新しいウイルスに対する人々の不安と、その不安に振り回される生活です。新型コロナウイルスに関するマスメディアの報道は、相変わらず誇張と偏向に満ちており、このことは去年の春と大して変わったところが見受けられません。世界中の政治家たちはウイルスを封じ込めようと躍起になって、不器用で残念な政治的判断を繰り返し、そのご都合主義的な政策によって、人々の気持ちと生活は翻弄されっぱなしです。

コロナ禍が始まった頃から強く叫ばれてきたのが、新型コロナウイルスは、これまで人類と共に存在してきたウイルスと違って、感染力が著しく高く、それゆえ特に危険なウイルスと言えるのではないか、という懸念でした。日本でそうした不安や恐怖を非常に強く印象づけた例のひとつとして、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥が、自ら立ち上げた新型コロナウイルス情報発信ウェブサイトで2020年3月26日に公開した「所長便り」があげられます。

「桜は来年も帰ってきます。人の命は帰ってきません」という見出しで、山中は以下のように書いています。

「新型コロナウイルスはすぐそこにいるかもしれません。感染すると、自分は症状が出なくても、周囲に広がって、リスクの高い方には生命の脅威となります。 …….. 新型コロナウイルスはすぐそこにいるかもしれないと自覚することが大切です。桜は来年も必ず帰ってきます。もし人の命が奪われたら、二度と帰ってきません。」

確かに、ウイルスのような我々の想像力をはるかに上回る小さなものは、どこにでもいる可能性があります。「すぐそこにいるかもしれません」という表現は間違いではありません。とはいえその言い方は、ウイルスという存在の論理的な可能性しか指摘していません。我々の日常生活の中でより重要なのは、理屈としての抽象的な可能性よりも、この現実の世界でウイルスがどこでどのように広がるのか、実際にどういう風に移るのかという具体的な話なのです。

この所長便りを初めて読んだときに、全く違う文脈のセリフが頭に浮かびました。「人間なら、死はどこでもいつでも訪れることができます。もしかしたら明日、いや今すぐここで死んでしまうかもしれないのです。」自己啓発セミナーや宗教の説法の中で、人生の無常を訴えるこうした台詞がよく聞かれます。今日、今、思い残さないように、後悔がないように、一生懸命生きなさいと自覚を促す励ましとして使われることが多いです。確かに人間にとって、今すぐここでいつでも死ぬ可能性があるのは事実です。そして想い残さないように生きるのもいいことです。それでもほとんどの人は、こういうことを意識せずに日々の生活を送っています。なぜかと言えば、現実的には、あるいは我々の実際の体験からすれば、若いうちに死ぬ人は非常に少なく、60歳、70歳、80歳になって初めて、死ぬことを自分のリアリティとして自覚し始める人がほとんどだからです。

ちなみに、「いつでも死ぬ可能性がある」ことを深く自覚した(悟った)人は、来年の桜を待っていません。今日か明日、すぐ花見に行きます。

正しく理解された無常感を生き方の軸とする人もいれば、ウイルスや病気に対する恐怖を生き方の中心にする人もいます。新型コロナウイルスについてどのように思うか、その現実をどういう風に受け入れるのかは、実は科学的なデータの問題ではなく、個人個人の心境や価値観に帰すものなのです。

さて、新型コロナウイルスの日常生活における実際の感染経路とは、どのようなものでしょうか。

まずはものを媒介する接触感染について見ていきましょう。米国疫病予防管理センター(CDC、Centers for Disease Control and Prevention)は 2021年4月にアップデートした報告で、公共空間の室内における、物の表面を媒介した接触感染の確率について以下のように明言しています。「SARS-CoV-2の接触感染リスクは低く、一般的に10,000分の1以下である。これは、汚染された表面に接触するたびに感染が起こる可能性が10,000分の1以下であることを意味する。」

ドアの取っ手、スイッチ、買い物カゴなどのものの表面に触ってウイルスに感染するためには、以下のような条件が必要となります。すなわち、「病気の人がある表面に向かって咳やくしゃみを直接し、排出された水滴や痰がついている表面に他の人が手で触った後、比較的早いうちに同じ手で、口、鼻、目に直接に触れる」ことです。つまり、咳やくしゃみのような症状のある病気の人でも、外へ出かけなければ、或いは出かけるときにマスクをつければ、ものの表面を媒介した接触感染をおこす可能性はありません。またこの報告によれば、屋内外を問わず、公共の場で/コミュニティ環境で、机や手すりなどの表面を消毒剤で定期的に消毒することで、感染を防止できる科学的なエビデンスはあまりありません。結論:「接触感染は新型コロナウイルスの主な感染経路ではなく、リスクは低いと考えられる」。(PDF1ウェブサイトPDF2

空気や呼吸を通じての感染はどうでしょうか?「新型コロナウイルスと空気感染の可能性」についてCDCが去年の10月に発表した別の報告を見みましょう。(PDF

ウイルスが人から人へ伝播するには、かなりの量の生きたウイルスを含む、病気の人が咳やくしゃみで排出した唾や痰の飛沫が、鼻、口、目に入る必要があります。それによって感染する(=病気になる)かどうかは、自分の免疫系の調子によります。呼吸器系ウイルスの場合、主に三つの伝播の経路が考えられます。

接触伝播:
病人との直接的な接触です。握手、キスなどの体の接触によって、唾や痰に含まれるウイルスが自分の手、顔などに着いてついてきて、それが自分の身動きによって、鼻、口、目に入ります。

飛沫伝播:
くしゃみや咳や激しい息づかいによって口と鼻から排出された、ウイルスが含まれている痰、鼻水、唾の飛沫によるものです。この後で説明するエアロゾルと違って、この飛沫はそれなり大きくて重たいです。長く空気に漂うことはできず、早く地面に落ちますので、病人のすぐ近くにいない限り、飛沫伝播はあまり起こりません。飛沫感染は濃厚接触(密接)を必要とします。

空気伝播、エアロゾル伝播:
人間が呼吸器から出す、飛沫よりうんと細かい微粒子をエアロゾルと呼びます。エアロゾルは飛沫と違って、何時間も長く空気に漂うことができ、空気の中で遠い所まで広がります。(霧、煙、PM 2.5、お香など)エアロゾルを通じて非常に効率良く広がって伝播する細菌はたくさんあります。その有名な例が結核菌、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスです。しかしエアロゾルという伝播経路は新型コロナウイルスに向いていません。CDC の報告書を引用します。

「新型コロナウイルスの疫学によれば、ほとんどの感染は空気感染ではなく、身近な人との接触によって広がることがわかっている。」
「これまで得られたデータによれば、新型コロナウイルスは他の一般的な呼吸器系ウイルスと同様に、主に近距離での呼吸器飛沫伝播によって広がる。」
「遠く離れた人や、感染性のある人が滞在した数時間後にその空間に入ってきた人に対して、感染になりうる拡散 ….. があるというエビデンスはない。」

つまり、新型コロナウイルスにおいて空気感染は例外的なもので、幾つかの特別な状況下でしか起こり得ません(例えば、相当混み合っている、密封された空間の中)。空気感染で広がらないということは、室外で感染する可能性は、理論的にはあったとしても、実際はゼロに近いのです。(PDFウエブサイト

病気の人との直接の身体的接触、あるいはウイルスを含んだ飛沫が人から人へ直接届くことが、新型コロナウイルスの伝播の主な経路です。ここで忘れてはいけない大事なことがあります。伝播と感染は同じことではありません。上記の経路で、ウイルスが鼻や口に入ったからといって、必ず病気になるわけではありません。ウイルスが伝播したとして、病気になるかどうかは、身体に取り込んだウイルスの量と自分の免疫系の調子のせめぎあいによって決まります。

免疫の防御を突き破ることの可能なそれなりの量のウイルスでないと、また免疫力が忽ちにやっつけることができないような量でないと、感染は起こりません。それ故に、免疫力がかなり弱っている人が、かなりたくさんの量のウイルスを取り込んだ時に初めて、病気になる現実的な可能性が出てきます。このふたつの条件が同時に満たされるケースはそんなに多くないです。ウイルスと接触があっただけでは、またウイルスが多少体内に入っただけでは、ほとんどの人は病気になりません。そんなわけで、新型コロナウイルスは、インフルエンザウイルス、ライノウイルスなどと同様に、弱毒性の呼吸器系ウイルスと見なされます。生物学的および公衆衛生学的な観点からみた、こうしたウイルスたちの自然の摂理については、京都大学名誉教授の川村孝が要約しています。 (PDF)

弱毒性の呼吸器系ウイルスは、伝播されても、移っても無症候のままや軽症の人が多いので、その蔓延は防止できません。蔓延を少し遅らせるために(免疫力向上以外に)一番効率的な手段の鍵は、病気の人が握っています。症状のある人、咳やくしゃみで大量の飛沫を出す可能性のある人は(ホメオパシーの手当をうけながら)、家でゆっくり病気を治すことです。そして病気にもかかわらず出かけなければならない場合、飛沫を減らすためにマスクをつけることです。

そのため日本の厚生労働省は、パンデミックの早い時期から、咳やくしゃみをする際に飛沫を飛ばさないようにと呼びかけて、マスクを咳のエチケットとして積極的に勧めています。同省が制作した、全国配布用のわかりやすい啓発ポスターがあります。(PDF)

ご承知のように、契約書などの重要書類では、多くの場合一番大事なことは文書の終わりに細かい字で書かれていて、その細かい文字で書かれた条件を一番真剣に読まなければなりません。このポスターもその良い例です。左下に、「マスクについて」という小さな文字の説明文があります。パンデミックの早期より、マスクは「コロナウイルスに対する戦争」の象徴的な旗印になりました。これにより、マスクの意味についての社会的政治的な見解と、免疫的医学的な見解との間には、かなり大きな隔たりができてしまいました。ちょっとわかりにくく書かれた文書ですので、その隔たりを十分に気にしながら、注意深く、ゆっくり読みましょう。

「マスクの表面は、汚れていると考え、触らないようにしましょう。また触ってしまった場合には手洗いをしましょう。感染している人からの飛沫を防ぐ効果は期待できないので、過信しないようにしてください。マスクは、症状等ある方が発する飛沫によって他人に感染させないために有効です。一方で、他人からの飛沫を防ぐ予防効果は相当混み合っていない限り、あまり認められていません。」

まず厚生労働省が注意喚起するのは、衛生の立場からするとマスクは問題があるということです。その次に明言しているのは、マスクには他人から飛んでくる飛沫を防ぐ予防的な効果がないということです。その発言を強調するために、最後にもう一回繰り返し同じことを説明しています。相当(!)混み合っている空間を除いて、マスクに予防的な効果はあまり認められていません。けれども、咳、くしゃみや他の症状を示す病人の場合、マスクは他人を守るためには効果があります。症状等がある人の咳などによる飛沫の伝播を防ぎますので、他人にウイルスを感染させないためには有効です。

マスクの意味と有効性についての厚労省の考え方の背景には、上記で紹介した、CDCが発表した新型コロナウイルスの主な伝播経路と同じ見解があります。弱毒性呼吸器系ウイルスは主に症状のある人から発せられる飛沫によって広がり、その飛沫を抑えるため、マスクに意味がある、という考え方です。

WHOも去年の6月に、その立場を踏襲しています。「現在のところのエビデンスによれば、伝播のほとんどは、症状のある人から他の人との密接な接触を通じて起こると示されています。そのため、WHOが推奨する個人的な防護策(マスクの使用や物理的な距離の取り方など)のほとんどは、初期段階での発見が難しい症状の軽い患者を含め、症状のある人からの伝播をコントロールすることを目的にしています。」(PDFウェブサイト

このエビデンスはこれまでの弱毒性呼吸器系ウイルスの主な伝播経路の、医学的・疫学的なデータや見解と一致するものです。(MP4

こうした見解がある一方で、無症状の人からの感染を問題視する人もいます。無症状の感染者が他の人を感染させることがありうるかどうかについては、パンデミックが始まって以来の長い論争があります。もちろん理論的には可能です。実際、稀なケースとして起こり得ますが、新型のコロナウイルスの広がり方としては主な方法ではありません。(PDF1PDF2PDF3

なぜかといえば、ウイルスが体内でかなり増えてから、初めて症状が出るからです。逆に言えば、症状を示さない感染者は、体内にあるウイルスが症状が出ない程度に少ない、ないしは速やかに免疫系にやっつけられているため、そもそもたくさんのウイルスを人に移すことができません。また、症状のない人は咳もくしゃみも出ないので、他の人を感染させる量の飛沫も出しません。日本でのクラスター感染の分析で得たデータを見ても、症状のある感染者と比べて、無症状の感染者の感染力は何倍も低いのです。(PDF)

多くの人の日常的な行動、そして国レベルの蔓延防止策を見ますと、まだ大多数の人々が、コロナウイルスが「すぐそこにいるかもしれない」という恐怖の中で生きているのがわかります。今回のブログで、新型コロナウイルスの伝播経路について詳細に述べた動機は、ウイルスを常に恐れるような過剰な恐怖を、そして強い不安を抱えて生きる人を、現実に基づいた冷静な見方へ導きたいというところにあります。(新型コロナウイルスを含む)あらゆる病気に対する最も心強い味方は、もともと私たちに与えられている免疫力や自然治癒力です。逆に、その免疫を大きく下げるのは不安と恐怖です。私たちが生まれてくるのは、恐怖で怯えたり、不安を抱くためではなく、この世にあるものを味わい、生きることを楽しむためです。ウイルスも人間も、私もあなたも、自然の一部として、深い相互関係で生きています。その自然は『「恐れる」ものでも,「怖れる」ものでもなく,敬意をもって「畏れる」べき』ものです。(福岡伸一、PDF