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2012.05.29

切手の話

日本郵便とドイツ郵便(Deutsche Post)が発行している切手のモチーフを比べて見ると、一つの大きな違いが目立ちます。ドイツの郵便切手がよく人物をモチーフにするのに対して、日本は人物をテーマにしている切手が殆んどありません。その反面、日本の大好きな植物とお花の切手が、ドイツでは割合少ないのです。
ドイツ郵便がどういう人物を切手に載せるかと言えば、それぞれの分野(文化、文学、芸術、科学、スポーツ、政治、学術,実業)での功績が広く認められている、過去と現代の偉人です。その中で今回紹介したいのは、ホメオパシーの設立者サムエル・ハーネマン(Samuel Hahnemann)の切手です。

一枚目は、1955年に『人類の救助者(Helfer der Menschheit)』シリーズで発行されたものです。その他のラインナップをご紹介しますと、フランス人で福祉に尽くしたヴァンサン・ド・ポール(Vincent de Paul)、スイスの教育実践家ヨハン・ハインリッヒ・ペスタロッチス(Johann Heinrich Pestalozzi)、赤十字の創設者ジャン・アンリ・デュナン(Jean Henri Dunant)、版画家、彫刻家ケーテ・コルヴィッツ(Käthe Kollwitz)、イギリスの看護師フローレンス・ナイティンゲイル(Florence Nightingale)、ノルウェーの探検者、政治家やノーベル平和賞受賞者フリチョフ・ナンセン(Fridtjof Nansen)などなど。近頃あまり馴染みのない名前が多いのですが、この人たちの理念と努力なしに、今や当たり前になったヨーロッパの現代社会の福祉、看護、教育、医療のあり方が考えられにくいものです。

二枚目の切手はホメオパシー誕生200周年(200 Jahre Homöopathie)を記念して、1996年に出されたものです。ハーネマンのポートレートとサインの下に「似たものは似たものによって治る」(similia similibus curentur)という、ラテン語のホメオパシー医療の中心的なモットーが書いてあります。

ちなみにホメオパシー発祥の地、ドイツだけではなく、このごろホメオパシーのとても盛んな国であるインドでも、1977年の第32回国際ホメオパシー会議(32. International Homeopathic Congress)を記念して、ハーネマンが写っている切手を発行しました。ハーネマンの頭の右側に見える植物がCinchonaの木です。キナの木の樹皮を薬として自己実験的にハーネマンが自分で飲み、ホメオパシーの根本的原理の発見を導く最初のヒントを受けたので、キナの木の話がよくホメオパシーの始まりを語る時に出てきます。切手の下の文章もそのことを説明しています:ニュートンにとっての落ちるリンゴ、ガリレオにとっての揺れるランプ、それがハーネマンにとって「キナの樹皮」でした。(Cinchona bark was to Hahnemann what the falling apple was to Newton and the swinging lamp to Galileo.)アイザック・ニュートンとガリレオ・ガリレイに並ぶ、サムエル・ハーネマン。それは、ホメオパシーとその設立者の偉大さと業績に相応しい認識を示していると思います。