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ハーネマンと同時代の哲学者、イマヌエル・カント(Immanuel Kant、1724 - 1804)の(もしかしたら一番)有名な論文の中にも、肝心なところで「Sapere aude」というアピールが出てきます。ハーネマン本人はおそらく、カントのこの論文を暗に示すため、「Aude sapere」という題辞をオルガノンに付したと思われます。同時代の読者だけではなく、ヨーロッパの思想史を少しでも知っている人なら、「aude sapere」という言葉を聞けばすぐカントの名作「啓蒙とは何か、という問いへの答え」(Beantwortung der Frage: Was ist Aufklärung, 1784)が浮かびます。「啓蒙」という言葉は、フランス語の「lumières」ドイツ語の「Aufklärung」、英語の「enlightenment」の訳語で、日本語としてさほど一般に馴染みのある言葉ではないので、その意味もう少し見てみましょう。【蒙】は道理に暗いこと、覆い隠すこと、愚かなこと、無知なことを言います。

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ホメオパシー医学の基礎をまとめた大作『オルガノン』に、ハーネマンは「Aude sapere」(アウデー・サペレ)という題字をつけています。表紙に書かれたタイトル「医術のオルガノン」のすぐ下、ひときわ目立つ場所に、第二版(1810年)から第六版まで毎回この言葉を掲げています。「Aude sapere」はハーネマンの「オルガノン」の基調を表すと言ってもいい言葉です。そして、オルガノンを貫く精神はホメオパシーそのものであり、個々のホメオパスの心持ちにもなるはずです — 少なくともハーネマンの考えでは。残念ながら、ほとんどの英訳や邦訳にこの題辞のことは説明されていません。ラテン語の「Aude sapere」を日本語に訳すと、「知ることへの勇気を持ちなさい」「勇気を持って分別しなさい」「賢明になる勇気を出しなさい」「知恵を活かす勇気を持ちなさい」のような意味になります。あらゆる学校の門の上に刻んでもいいスローガンです。何があって、何のために、ハーネマンがこの題辞を選んだのか、もう少し探っていきましょう。

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ハーネマンが病気の原因について語る。その 1
人間はどうして病気になるのか?哲学的には答えは簡単です。生きている人間は、孤立的な存在ではないからです。生きることはすなわち、あらゆる次元やレベルで、数えられないほどたくさんのものや人との相関関係において存在する、ということでしかありません。命でさえも頂きものです。人間はそうした無数の相関関係の中で、能動的に人や環境に良い影響を与えることもあれば、悪い影響を及ぼすこともあります。同時に、受動的なかたちで人や環境から良い影響を受けることもたくさんあれば、悪い影響を被ることもあります。その複雑な仕組みの中でそれなりにバランスを保ちながら、悪いことを減らし、良いことを増やすことで、本人も、周りのものや人も、健やかに伸びていくことができます。しかし、悪い影響が多すぎると、自分ないし自分の周りにいるものは害を受け、壊れる或いは病気になる可能性があります。生きることは、こういったかたちでのギブアンドテイクに根ざした営みであるがゆえに、人が病気になる可能性は避けられません。

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セルフメディケーションとファミリーホメオパシー
自分のために自分でレメディーを選ぶセルフメディケーションや、親が子供や身近な人にレメディーを飲ませるファミリーホメオパシーについて書きたくなった理由は、日本独特とも言えるホメオパシーのスタンスにあります。というのも、クラシカル・ホメオパシーはその成り立ちや本質から見れば、今主流である西洋医学(近代医学)と対等な医学なのですが、この点について、これまで日本ではほとんど認知されずにきてしまったからです。ちなみに、西洋化のプロセスで日本で主流になった医学を「西洋医学」と呼ぶこと自体、僕には違和感があります。「西洋由来」という意味だとしても、近代医学には、いまだ西洋以外の国々(例えばアメリカ、日本)の研究者や医者も大いに貢献していますし、ホメオパシー医学も西洋由来医学の一つです。これらの医学を区別しやすくするため、それぞれの基本的な考え方を手がかりにして、「ホメオパシー医学」と「アロパシー医学」という呼び方にしたほうが正確だと思います。その理由や「ホメオパシー」と「アロパシー」という言葉の語源と意味については、簡単に以前のブロ

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コンビネーション・レメディーについて
結論から言うと、クラシカル・ホメオパシーはコンビネーション・レメディーの利用を嫌います。コンビネーション・レメディーとはなんですか。複数のレメディーを混ぜて、一つのレメディーに混和されたものを、「コンビネーション•レメディー(ドイツ語:Komplexmittel、英語;combination remedy)」と言います。ドイツの薬局で買えるコンビネーション・レメディーの多くは、4〜6つぐらいのレメディーが混和されていますが、最近はもっと多くの種類のレメディーが入っているものもあります。日本ではどんなコンビネーション・レメディーがあるのかを調べたところ、マザーチンクチャー(レメディーの素になる植物のエキス)とレメディーを20種類以上混ぜたようなものが市販されていることを知って驚きました。

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セッション(診察)の行い方 (その2)
さて、患者個人の診察のため、ホメオパスにはどういう姿勢が必要なのでしょうか。それはできるだけ白紙になって、「耳」になることです。質問で何かを聞き出すというより、患者を主人公にして、語らせて、その話を聞くのです。人はそれぞれ違います。そのための欠かせないのは、ハーネマンが言うところの「先入観のない虚心坦懐な心構え(Unbefangenheit)」、「健全で顕然たる感覚(gesunde Sinne)」、「丹念で注意深い観察(Aufmerksamkeit im Beobachten)」です。(Organon § 83)。クラシカル・ホメオパシーのセッションでは、充分な時間を以て、こういう姿勢で患者に向かいあい、話を聞きながら診察するのを基本としています。ハーネマンは、このような話し合いによる診療の行い方を、Organon (オルガノン)の § 82-90 のなかで細かく説明しています。

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セッション(診察)の行い方 (その1)
従来の西洋医学では、病気を治療する際、事前に患部の検査とそのデータに基づく診断が必要です。病名が決まらないと処置が決まりません。簡単にいうと、検査と診察の目的は病名の診断なのです。ほとんどの場合、病名が分かればお勧めの処置の選択肢が自ずと決まってきます。その病名を探り当てるために、医者は目の前にいる患者の、個人的で主観的な病気の感じ方や症状の表れ方を排除し、主に客観的で普遍的な症状、言い換えれば、物質的に量れる病的変化やデータに着眼します。一つの例を挙げましょう。咳で悩んでいる人が診療に来ました。医者は聴診器、レントゲン、喀痰(カクタン)検査、気道検査、アレルギー・テストなどで、この患者の肺や気道にどんな病気があるかを決めます。このように病名を診断するとき、彼らが全く興味を示さないものがたくさんあるのです。

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