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火傷の手当てについて
料理、アイロン、石油ストーブなど、日常生活で起こりやすい軽い火傷。その緊急処置として、今は一般的に「冷やすこと」が認知されています。その一般的な常識についての是非はひとまず置いておいて、ホメオパシー医術の知恵と経験に基づいた火傷の手当てを紹介します。
ホメオパシーでは、火傷の緊急処置として「温めること」をお勧めします。実は火傷を冷やした場合と、温めた場合では、痛みの引き方と傷の治りのスピードが違います。比べてみると、温めたほうが早く、そしてスムーズに治るのです。
「火傷はできるだけ早く冷やさなければならない」という常識の背景には、生きている人間を単なる「生命のない物質」として機械的に捉える考え方があります。確かに、家でも山でも、物に火がついた時、焼け焦げる前に早めに水をかけるべきなのは明らかです。火事で全焼する前に。
生き物はこういう「物」とは違います。なぜなら、生き物には外的な影響、攻撃や衝撃に対して、自分のバランスや元気を保ち続ける力が備わっているのです。その力を、私たちはいろいろな呼び方で表現しています。生命力、自然治癒力、免疫系、元気、生気など。近代医学では、この自然治癒力や生命力の偉大さ、知恵について、ほぼ忘れ去られていると言ってもいいでしょう。ところで、その力と火傷の話はどういう関係なのでしょうか?
火傷をすると、その部分に痛みが生じます。我々がいやな、ヒリヒリとした痛みとして感じているのは、実は体とその自然治癒力にとって、大事な信号です。体の生きている組織が「傷んでいる」という情報を発信しているのです。火傷した指の痛みが、自然治癒力に向かって、「指が熱で傷んでいるよ」と伝えます。その情報を受けると、自然治癒力は直ちに働き出します。故障や傷みがこれ以上広がらないように、死んだ細胞を早く処分するように、傷口が化膿しないよう消毒するため、痛みを和らげるため、そして失った細胞や組織がまた早く育つように、自然治癒力が早い回復に向かって様々な機能を速やかに発揮し始めるのです。
この状態のなかで、火傷を冷やすと何が起こるでしょうか?まず、急激な冷却で神経が麻痺し、痛みが感じられなくなります。その結果、「火傷しているよ」という情報の伝達が抑えられ、逆に手が冷たくなりすぎて、「温めなさい」という情報が自然治癒力に流れるのです。ほぼ同時に、同じ局部を巡って、自然治癒力がまるで反対の情報を受信することで、どう働けばいいのかと混乱して、回復のプロセスが複雑になり、その結果、治癒が遅れてしまうのです。冷やしたのに水ぶくれになるのは、このような混乱が一つの大きな原因です。
逆に、火傷したところをもう一度温めると、「火傷していますよ」「本当に大変ですよ」という痛みの情報が繰り返し自然治癒力に伝わります。それに反応して、その働きがより早く、より正確になります。ほとんどの場合、水ぶくれにならずに、火傷が非常に早く治るのです。
冷やした場合と、温めた場合とで、痛みの感じ方をよく観察しますと、双方の応急処置の違いがよく分かります。ヒリヒリと痛む患部を、冷たい水につけた途端に、痛みは嘘のように消えます。急な寒さによって神経が麻痺され、傷んでいるということが感じられなくなるからです。その反面、指を水から出した瞬間に、痛みは前より強い勢いで戻ります。冷やすことで痛みの(自然治癒力への)伝達が遮られたため、中断してしまった「痛んでいるよ」という情報を、今度こそ、より堅固に、伝えようとするのです。
一方で、患部を優しく温めると、火傷のヒリヒリする痛みが増し、より強くなりますが、常温に戻すと、痛みがすぐ減り、温める前の痛みより弱くなります。しばらくすると、ヒリヒリとした痛みがまだ戻ってきます。その時にまた優しく温めます。それを繰り返す度に、痛みが弱くなって、楽になります。繰り返し温めることによって、「傷んでいるよ」という情報の伝達が十分に行われ、それによって自然治癒力がより速やかに、より正確に効いて、痛みが早く引き、傷が早く治るのです。僕は「火傷は冷やす」としか知らなかった料理人に、これまで何回も「温める」ことを教えてきました。その度に、皆、火傷が楽になり、痛みや水ぶくれにならずに早く治るので驚いています。
火傷を温めるときは「優しく」がポイントです。繰り返し火傷させるのではなく、傷んだところを(お湯、湯気、火の上などで)優しく温めながら、無理せず耐えられる程度で痛みを繰り返すこと。大事なのは、この「繰り返し」です。痛みが楽になり、ほぼ無くなるまで、繰り返すこと。どんな頻度で繰り返したほうがいいのかは、火傷の程度に依ります。もちろん、軽い火傷と言えない重度の場合は、すぐ専門的な処置を受ける必要があります。(ちなみに、ホメオパスはこういう深い火傷も、冷やさずに治療します。)
火傷を熱で再び温めることができない場合、あるいは嫌がる子供の場合などは、別の痛みの繰り返し方があります。ティッシュか布にお酢を浸し、患部に繰り返し当てる方法です。お酢の刺激で、傷んだところが再度(温めた時と似たように)ヒリヒリと痛くなります。この方法は、特に口の中の火傷の時に便利です。舌を火傷した時など、すぐにお酢で口をうがいすると、火傷がすぐに治ります。
言うまでもなく、これまで話した「温める」と「冷やす」の緊急処置の違いは、ホメオパシー医学と近代医学(アロパシー医学)の基本的なスタンスの相違を見事に語っています。アロパシー医学は対処療法的に、ある局部に現れた症状(熱傷による痛み)を「抗=冷」で抑えようとします。痛みは冷やすことで一時的に感じられなくなりますが、結果として傷の治癒はより長くかかります。ホメオパシーは傷の元にある刺激を、似たような刺激で優しく繰り返すことで、自然治癒力を生かし、速やかに治します。
ちなみに1816年のドイツで、「火傷を冷やす」と「火傷を温める」、どちらが優れている処置なのかについて、二人の医者による激しい論争がありました。
Halle(ハレ市)で病院を経営していた K. H. Dzondi (1770-1835)が、「火傷とその全ての、一番確かで、早い、痛まない治療方法について」(Über Verbrennungen und das sicherste Mittel, sie in jedem Grade schnell und schmerzlos zu heilen, 1816)という本の中で、「冷やすこと」を唯一正しい治療方法として提示しました。50 km 離れたライプツィヒで開業していたサミュエル・ハーネマンは、これに猛烈に反発し、「温めること」の優位性を強く訴えています。その激論の応酬は、当時のドイツの数少ない日刊紙の表紙(!)で何回も繰り返し掲載されました。以下に、ハーネマンの反論の最初の段落を翻訳します。
Ueber die Heilung der Verbrennungen gegen Dr. und Prf. Dzondi’s Anpreisung des kalten Wassers (Allgemeiner Anzeiger der Deutschen 13.6.1816, 1. Bd, Nr. 156, 1621-1628 )
(PDFとしてダウンロード)
「火傷の治療について。ツォンディ教授の冷たい水の賛美に反論。
火傷した時の冷たい水の有害性は、火をよく扱う人なら、だれもが分かりきっているのに、ハレ市のツォンディ教授が、熱傷の唯一確かな、そして一番良く助かる治療法として、冷たい水を挙げているのは、大変残念なことです。本当のことをきちんと調べた上で、冷たい水を最良の確かな処置として賛美できるよう、ツォンディ教授は実際に他のすべての治療方法を実験し、比較を行ったのでしょうか?火傷のような傷の場合、どんな処置が最初の痛みを一番よく和らげるかは、そんなに大事ではありません。一番重要なのは、焼かれた皮膚を一番早く完全に無痛にする、一番早くそして完全に治す処置を行うことです。その処置がどれであるか、推測では決められません。他ならぬ実験と比較で判明することなのです。だけれどもわざわざ実験するまでもなく、日常生活でのたくさんの経験が示しているように、冷たい水の正反対のもので、火傷が一番早く、そしてきちんと治ります。一時的で瞬間的な癒し(Lindern)ではなく、こういう形できちんと治すこと(Heilen)が、医者の本業です。」
「温めること」の優位性を示すため、ハーネマンはその論文の中で、過去と現在の医療の大家による臨床経験を数多く並べ、軽い火傷から重症の火傷までの治療法を細かく紹介しました。そして、これらの臨床に基づく知恵に耳を傾けたくないツォンディ教授に、自己実験も提案しています。右手と左手の同じ二本の指を2-3秒間沸騰している湯に浸してから、片手の指を「冷やす」処置、一方を「温める」処置を行ない、その治りの違いを、自分の身で経験するように、と。
わざわざ指を火傷させる必要はないのですが、今度火傷した時は、「温め」てみてはいかがでしょうか。
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