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クラシカル・ホメオパシーの特徴 3
ーー コンビネーション・レメディーについて ーー
結論から言うと、クラシカル・ホメオパシーはコンビネーション・レメディーの利用を嫌います。
コンビネーション・レメディーとはなんですか。
複数のレメディーを混ぜて、一つのレメディーに混和されたものを、「コンビネーション•レメディー(ドイツ語:Komplexmittel、英語;combination remedy)」と言います。ドイツの薬局で買えるコンビネーション・レメディーの多くは、4〜6つぐらいのレメディーが混和されていますが、最近はもっと多くの種類のレメディーが入っているものもあります。日本ではどんなコンビネーション・レメディーがあるのかを調べたところ、マザーチンクチャー(レメディーの素になる植物のエキス)とレメディーを20種類以上混ぜたようなものが市販されていることを知って驚きました。
これらのコンビネーション・レメディーは、特定の病気に用いる薬として売っています。例えば風邪、咳、便秘、咽の炎症、インフルエンザ、不眠症、鬱などです。国内のホメオパシー関連メーカーが製造しているコンビネーション・レメディーには、はっきりした病名が書いていませんが、その商品の名前(「HJコンビネーションチンクチャーCanシリーズ」など)を見れば、ホメオパスの僕には、それが色々なタイプのガンの場合に用いられると推測できます。例えば Can-Recが大腸癌、Can-Stomが胃癌という具合です。
名前の通り、コンビネーション・レメディーは幾つかのレメディーの混和ですが、どういう原理でそれそれのメーカーが混合するレメディーを決めるのか。実のところ僕にはさっぱり分かりません。クラシカル・ホメオパシーには風邪のレメディー、胃癌のレメディーという局所的な処方はありませんが、ある病気に悩む人に(その人の個人化された診療に基づいて)処方した場合、その人の病気が治ったという、長い年月の臨床データで(経験的に)実証されているレメディーがたくさんあります。そのレメディーの中から幾つかを混ぜて、コンビネーション・レメディーのメーカーが特定の病気の薬として売り出す。言い換えれば、たくさんのレメディーを混ぜて飲めば、その中の一つが当たる可能性が高くなるという考え方です。これは個人化された診察の上に成り立つ、的確なレメディーの選定とは異なります。ドイツ語で言うところの Giesskannenprinzip (じょうろ原理:じょうろで水を注ぐように浅く広く行き渡るようにする方式)に基づいたレメディーの使い方です。
例えば料理を作るときに、素材に合う、その美味しさを引き立たせるスパイスを丁寧に選ぶことをせず、何となく合いそうな20種類のスパイスを全部かければ、料理が美味しくなる可能性が高くなるだろうという考え方です。別の例で言えば、今の自分の気分にぴったりの音楽を選ばず、幾つかの音楽を同時にかければ、音楽を聴く楽しみにもっと満足するのに近い発想です。ちょっと大胆な言い方になりますが、僕にはずぼらなごちゃ混ぜのレメディーにしか思えません。
ホメオパシーの根本的な原理である「個人化された診察」に基づいて、患者の全体の調子にぴったり合うレメディーを選択する。そのかなり専門的な工程を省いた点に於いて、コンビネーション・レメディーの利用は西洋医学と同様、病名に基づいた対症療法的なやり方に逆戻りしていると言わざるをえないのです。
だれがどんな原理に基づいてその混和を決めるのか。殆どの場合は明確ではありません。そしてもう一つの問題点を挙げますと、それらはプルービング(proving、レメディーの効果範囲を把握するための、ホメオパス達による自己実験や臨床的利用)なしに使われています。コンビネーション・レメディーが本当に患者さんのためになるのか、あるいは製造会社や薬局のためにあるのか、私には疑問です。
現在はヨーロッパでも、コンビネーション・レメディーの多くが、ホメオパシーや医師による診療とは関係無く、いろいろな病気や不調の市販薬として浸透しており、誰でも薬局やネット販売で手に入ります。多くの人がコンビネーション・レメディーを「ホメオパシーの薬(レメディ)」と思っていますが、コンビネーション・レメディーを使う療法は、対症療法的でアロパシー医学に逆行した「ホメオパシーもどき」でしかありません。
実は、コンビネーション・レメディーの普及に大きな影響を及ばしたのが、アントロポゾフィー(人知学)の創立者、ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner, 1861-1925)でした。ホメオパシーとルドルフ・シュタイナーの関係については、誤解されることもたくさんありますので、ここでちょっと触れたいと思います。
日本では主に教育思想家として、シュタイナー教育(ドイツ語でWaldorfpädagogik)の設立者として知られているルドルフ・シュタイナー。その教育理念は、彼のの神秘思想体系(アントロポゾフィー、あるいは人知学)に深く根付いています。アントロポゾフィーは、人間、宇宙、存在の全ての由来や行方を説明しようとする、そしてその説明に従った実践や生き方を求める神秘的な世界観です。哲学、神学を専門に学んだ僕の目からすると、オカルトなところが多く、思想というよりも新興宗教に似ています。思想より「主義」。ともかく、その世界観を元にして、シュタイナーは人間存在の色々な分野に、新しい実践や改革を取り入れようとしました。それは教育、農業、宗教、建築、そして医学に及びます。
アントロポゾフィー的医学はルドルフ・シュタイナーとイタ・ヴェグマン(Ita Wegmann, 1876-1943)という女医によって1920年ごろから作り上げられた、シュタイナーの世界観を基礎とする医学です。シュタイナーは「自然界」から採った「希釈」されたホメオパシーのレメディーに魅力を感じ、それを非常に低い希釈度のコンビネーション・レメディーという形で取り入れ、アントロポゾフィー的医学の薬として取り扱うようになりました。
明確にしなければならないのは、アントロポゾフィー的医学に於けるホメオパシーのレメディーの使い方は、元来のホメオパシー医学の原理と全く関係がないという点です。ホメオパシーからすると、これはシュタイナーの神秘的な世界観に当てはめられた、非常に勝手な取り入れ方です。ホメオパシー医学と、シュタイナーのアントロポゾフィー的医学の治療へのアプローチは根本的に違います。
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