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ホメオパシーは医学なのか、カウンセリングなのか?
「ホメオパシーは医学ですか、それともカウンセリングですか」という質問を日本ではよく受けます。
ホメオパスは患者の調子を把握するため、病院とは違い、検査機器を使わずセッションで患者の話を聞きながら、診療を進めます。そのためか、ホメオパシーに不慣れな日本では、ホメオパシーは「医学というよりカウンセリング的なセラピー」、言い換えれば「主にこころの病を得意とする治療法」という印象になりやすいのです。
医学なのか。カウンセリングなのか。この質問に答える前に、ちょっと哲学のお話をしましょう。個人の「こころ」をテーマにするカウンセリングと、人間の「身体」を処置する医学とは、別のものだという考え方は、こころ(精神)と身体(物体、物質)をきちんと分けることができるというものの見方を前提しています。哲学的に言えば、こころ(精神)と身体(物体)の二元論的な発想に由来するものです。この考え方を初めて明確に確立したのは、およそ400年前の哲学者、レネ・デカルト(Rene Descartes, 1596-1650)です。そして、この「こころ」と「身体」を分裂する考え方によって、存在しているあらゆるものを(何の気、生命、魂を持っていない)ただの物質として扱う近代科学の発展が可能になったのです。
この歴史的な背景を見ると、冒頭の質問そのものが私たち現代人の医学的常識が、どれほど近代科学の眼鏡に洗脳されているのを見事に語っています。あえて洗脳という言葉を使ったのは、ドイツや日本の現代の近代医学システムが、基本的にその二元論的な分け方に基づいて浸透してきたからです。物質である身体は、機械や化学的な薬に頼る近代科学医学の専門分野であり、科学的に捉えることが難しく、医学的な処置だけでは扱えない精神やこころの動きは、主に話や感情を診療道具にするカウンセラーの専門分野という「常識」。そのこと自体、病院に行くたび、(洗脳された)頭の中では、当たり前の事実だと思い込んでいるのにも関わらず、私たちは、ごく普通の日常的な経験の中で、こころと身体を切り離せることがどれほど難しいか、よく分かっているのです。
学校の先生に叱られて、子供が次の日に学校に行かなくて良いように、熱を出す。怒ったときに、脈が早く、息が浅くなって、血圧が上がる。上司にきついことを言われて、お腹がシクシク痛くなる。普段穏やかな女性が生理前に非常にいらいらした気分になる。好きな人を失った悲しみで、食欲がなくなる。自分に合わないチームに配属されてから、毎朝会社に行く前にひどい頭痛になる。残業で疲れ果てて、デスクで眠りに落ちる人が、同僚の笑顔や褒め言葉によって、体力と気力が湧いて、企画書を見事に書き上げるようになる。好きな娘が見舞いに来た日だけに、施設に入ったお父さんの血圧が正常値に下がる。親のうるさい喧嘩を見た子供が、その夜おねしょをする。二日前から寝られないほどひどい偏頭痛に悩む人が、友達と何度も大笑いしながらおしゃべりをしたら、偏頭痛がうそのように消えた、などなど。
誰もが毎日体験するように、こころと身体は、同じ生命体の異なった局面とでも言うべき、切り離すことのできない強い繋がりを持っています。
「元気」という言葉。それは単に「臓器に異常がない」身体の健康状態ではなく、人間全体の調子を言い表しています。気分的にすぐれないときに、だれも自分の調子を「元気」とは言いません。
医学や医療の場合、問題になるのは、その二元論的な発想からくる不自然さと制約です。「こころ」と「身体」を持つ生命体である患者が、医者の助けを求めたとします。そのとき医者が、この二元論的な発想に基づいて、患者の中のどこかに無理やり人工的な境界線を引いて、こころと身体を別々に分け、物体としての身体だけを治療すれば、その治療の可能性はすでに制約を受けています。
簡単な例を挙げましょう。突然、心筋梗塞になってしまった50代のサラリーマン。病院に運ばれて、集中治療室で救急処置を受けた後、二日後に心臓内科の病棟に移されて、ベッドに主治医が訪ねてきました。
― 先生、心筋梗塞はなぜ、どういうときに起こるのですか?」
— 心臓は一生の間、一秒でも休まずに働きつづける筋肉です。その筋肉が動くための血液が十分に心臓に届かないと、心臓が障害を受けて、そのまま長く続くと筋肉の組織が死んでしまいます。あなたの場合、救急処置が速かったお陰で、その時間が短かった。幸運にも大きな障害はありませんでしたが、これから気をつけなければなりません。
— 先生、どうして僕の心臓に十分な血液が流れなかったのでしょうか?
ー 心臓の周りにある血管が狭くなっています。狭窄という症状で、流れる血液の量が少なくなったのです。
ー どうして僕の血管が狭窄したんでしょうか。
ー あなたの場合、動脈硬化が主な原因です。血管壁や内部に、垢のように色々な余計なものが堆積して、それをプラークと言います。このプラーグの堆積で血管が固く狭くなります。
ー どうしてプラークが出来ちゃったんだろう。
ー さあ、原因は色々あると思いますよ。ちょっとメタボ傾向もあるし、ヘビー・スモーカーでもあるし...
ー 何回も試しましたが、タバコはなかなか止められません。
ー 簡単じゃないかも知れませんが、ともかく二度目の心筋梗塞を防ぐためには、タバコを止めなければなりません。その上に、スポーツを始めて、食生活をもっと健康的に改善してください。そしてストレスを出来るだけ避ければ、心筋梗塞も起こらないでしょう。
こういうやり取りを、僕はいつも不思議に思います。近代医学は、人間の身体の中に起こる病的変化の因果関係を(上の例で語ったよりもはるかに)細かく説明できるのに、患者がその病的変化の個人的な原因、(つまり、どうして私に今こういう病的変化が起こったのか?)をもっと突き詰めようとしたとたんに、医者の答えは一般的で曖昧になってくるのです。ストレス、トラウマ、生活習慣…
近代医学は心臓の話は得意ですが、患者個人のこころの話は苦手です。心臓(heart)とこころ(heart)は一体どういう関係なのでしょうか。
病院の先生の言うことは、確かにあっています。僕もその患者には禁煙を強くお勧めします。けれども、心筋梗塞の原因はタバコにあるのではなく、タバコをやめられないところにあります。つまり、この患者は自分のこころや生活に、タバコなしでは耐えられないこと、タバコをやめられない何らかの深い原因があるのです。病気をきちんと持続的に治そうと思えば、話をその原因まで深める必要があります。そしてそれは極めて個人的な原因の洞察と治療になります。一般的によく言われる「ストレス」、「トラウマ」、「生活習慣」は個人それぞれによって実に違うものです。
家族関係に由来するストレス。仕事環境から来るストレス。試験を受けなければならないストレス。自分の強い責任感、厳しい道徳観から来るストレス。隣の工事現場がずっとうるさくても、ストレスになります。ストレスの種類は数えられないほどたくさんあります。そしてその感じ方と受け止め方は個人個人で違います。良いストレスもあれば、人を駄目にするストレスもあります。
それと同様に心筋梗塞の背景やきっかけも、人それぞれ違います。好きな人を急に失って、寂しく悲しんでいる人の心筋梗塞。離婚のお願いが断られたあとの心筋梗塞。長く過労して起こる心筋梗塞。試合のためトレーニングの間に起こるスポーツ選手の心筋梗塞。セックスのときに発生した心筋梗塞。待ち遠しい娘の結婚式に起こった心筋梗塞。そのときの「こころ」はみな違うので、たとえ臨床的な症状が似ていても、実は違う心筋梗塞なのです。そして心筋梗塞の背景にあるこころの悩みや生き方のアンバランスを治さないと、また何時か心筋梗塞を起こす可能性があります。
心筋梗塞、脳梗塞、ガン、リウマチなど、自己免疫疾患による病気の再発率が非常に高いのは、一度医学的な処置によって抑えても、近代医学の治療がその背景にある、こころや気の病(生命力の縺れ)を十分に気に留めないことが一つの大きな理由です。
かといって、個人的なこころの話を聞くカウンセラーのところに行っても、そこは医学的に必要な処置があまり得意ではない。そう考えれば、近代医学の病院に世話になろうと考えるのも無理はありません。近代医学の傘の下に入れば、少なくともまた心筋梗塞になったときにバイパス手術をしてくれますから。
とここまで書いたところで、皆さんに一度、目をつむってみて欲しいのです。そして頭とこころの中に、自分が困ったときに受けたい医療、そして人類の未来に望ましい医学を思い描いてみて下さい。どうでしょうか。どんなイメージ、希望が浮かびますか。
僕の頭に浮かぶ医学は、今の常識的な「身体とこころの分裂」を超えたところの、自分のこころの調子と身体の病的変化とその関連性を同時に診てくれる医学です。そのために僕はホメオパシーを選び、ホメオパスになりました。
患者の身体の病的変化と精神的調子を診て、その個人の全体に合うレメディーを決める。レメディーは患者の生命力や治癒力に働き、こころの失われたバランスも、肉体の痛んでいる組織も元気な状態に戻します。
もちろん、ホメオパスが患者の精神状態を聞く必要がない、あるいは聞く時間がないケースもたくさんあります。全ての救急処置、怪我、事故、疫による伝染病、死ぬ直前の応急処置等など。この場合、ホメオパスは患者の自覚症状と自分が五感で察知できる身体や精神の様子を手掛かりにして、その場で必要なレメディーを決めます。
そして国や地域のよって治療のためのカウンセリングのウエイトや必要性も違います。貧しい発展途上国や、戦争や天災に追われた地域などで仕事しているホメオパスは、衛生状況が悪く、食事がたりなくて栄養が充分取れないような、生活環境の非常に厳しいことに由来する病気の患者が多いため、長いカウンセリングが不可能なや不必要な場合も多いです。
日本やドイツにも最近貧富の差が早いスピードで大きくなりますが、発展途上国と比べられないほど豊です。衛生状態が非常(場合によっては潔癖なほど)に優れて、食料事情が(メタボが問題になるほど)豊かで、国の医療システムが(赤字経営を避けられないほど)高度に発達している、そんな国々は、病気の特徴も違います。大げさな言い方になりますが、ドイツや日本のように、「きれい」「安全」「豊か」が徹底した物質的に恵まれている生活環境で、物質的な問題から病気になる必要がないのです。それでも病気になるのは、そのきっかけや原因が、患者一人一人のこころの悩み、精神面や生き方のアンバランスにあるとしか考えられません。それらを解消し、患者を元の元気に戻すための治療には、カウンセリングという医師と患者の話し合いが欠かせません。
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