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お勧めの本:Peter Gøtzsche, Deadly medicines and organised crime
1833年に出版されたオルガン第五版の前書きに、これまでの医学(アロパシー医学)と薬について、ハーネマンは以下のよう書いています。「従来のアロパシー医学は、投与している薬の長期的な、多くの場合恐るべき影響を知らない。そして色々な作用物質を混ぜて同時に治療に使うことによって、その影響をわざわざ分からなくするようにも見える。こういった強い薬を、多くの場合長期間、頻繁に繰り返し、大量に投与することによって、従来のアロパシー医学は患者の身体を傷めつける。さらに長年にわたる使用によって身体に、場合によっては、根絶できない新たな病気を植え付ける。」
もちろん、ハーネマンがホメオパシー医学を形にした19世紀初頭に、アロパシー医学が治療に用いた薬剤と、近頃の製薬会社が近代医学のために作っている薬は大いに違います。1800年頃にヨーロッパで使われた薬剤は主にハーブの抽出物や自然界にある毒物(砒素、水銀、硫黄、阿片など)を素材にして、医師や薬屋が工房レベルで作られたのに対して、近代的製薬産業のルーツは、19世紀の終わりに発達した化学染料の発見や生産技術にあります。今の有名な製薬会社の殆どは合成染料メーカーとして始まりました。化学染料のために開発された合成化学によって薬の量産が初めて可能になったのです。昔と今の薬の作り方が全く違うとは言っても、その副作用や薬害の問題はあまり変わってはいないようです。ハーネマンの200年前の指摘は今日も変わらずに通用します。
この問題があまり表に出ず、あるいは漏れても責任を取らずに済むようにするため、多くの製薬会社が、信義と良心からかなり隔たりのある、法的にグレーゾーンに及ぶやり方で積極的に頑張っている事情は、残念ながら今日の現実です。その真相は、ここでお勧めしたい本のテーマになっています。
Peter Gøtzsche, Deadly medicines and organised crime: How big pharma has corrupted health care(Radcliffe Publishing Ltd, 2013)
(致命的な薬と組織犯罪:大手製薬会社は如何にして医療を腐敗させたか)
表紙と表題を見ると、よくあるような感情的な製薬会社バッシングのように思われるかもしれませんが、中身はまるで違います。著者のピーター・ゲッチェ氏は生物学と化学を修めた、デンマーク出身の内科専門医です。1975-1983年にわたり製薬企業に勤め、その後コペンハーゲンの病院勤務を経て、2010年からコペンハーゲン大学の教授に就任しました。専門分野は臨床研究のデザインと分析。北欧コクランセンターの設立者と所長を務めています。経歴や経験から察するに、新薬の開発研究と臨床研究を評価するための最高の資格を持っている人物です。なおかつ頭が切れて物書きが上手、分かりやすくて読みやすい本です。
ゲッチェ氏はこの本の目的を次のように説明しています。
人類は色々な悪疫をコントロールできるようになりましたが、「今になって、我々人間は自ら生み出した二つの人工疫に悩んでいる:タバコと処方箋が必要な薬。両方は非常に有害です。アメリカとヨーロッパでは、医薬品が心臓病と癌に続く三番目の死因です。如何にしてそうなったのか、そしてそれを止めるため我々は何が出来るのかを、この本で説明したいと思います。」
僕自身、これまで製薬会社のやっていることを充分批判的にとらえてきたつもりですが、この本を読んでかなり驚きました。ゲッチェ氏は製薬会社の名前を挙げながら、組織犯罪としか言えないようなやり方で、どれほど汚い手を使って、各国の甘過ぎる規制の下に、医者を利用しながら(あるいは洗脳しながら)患者の命を脅かすか、たくさんの実例を紹介しつつ分かりやすく分析しています。その中には多くのこれまで聞いたことのない実例やケースも含まれています。
出版されて2年が経った今も、製薬産業から名誉毀損の原告や差し止め請求が出ていないことが、この本の質、内容の信憑性を物語っています。
2014年に英国医学会(BMA, British Medical Association)の医学書のコンペティション(Medical Book Award)で、この本が医学の基礎分野で最優秀賞(First Price)を授賞しました。
濃い内容の510ページの本ですから、ここでその中身をひとつひとつ紹介することは出来ませんが、医療の現状と未来に興味を持つ人なら、読まなければならない本です。厚生省の役人や医者の必読書です。ドイツ語訳はありますが、一刻も早い日本語訳が待ち望まれます。英語版はKindle Book版も出ています。目次や最初のページのサンプルはネットで読めます。
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