Blog

2016.11.08

サプリメントについて。なぜ飲まないほうがいいのですか?

健全な食生活というのは?(その6)

「サプリメントについてはどう考えていますか」という読者からの質問がありました。前回のブログの結論から言えば、サプリメント(栄養補助食品、健康補助食品)は加工度の極めて高い食品です。

残念ながら、これらの類の食品は、最近恐ろしいスピードで普及しつつあります。ビタミン、ミネラル、酵素など、その種類や商品が数えられないほど増えているのです。いずれも決して安いとは言えませんが、毎年、売り上げを伸ばしています。サプリメントを食品のひとつとして捉え、はっきりした医学的な理由がなくても、毎日そして習慣的に飲むひとが多いようです。「栄養補助食品」や「健康補助食品」という名前も、このような使い方に誘惑しているかもしれません。というのは、サプリメントは元来、薬でも食品でもないのに、多くの人が「サプリメントは一種の薬効果を持つ食品のようなものだ」と思っているようなのです。

いかがでしょうか?あなたはサプリによる栄養の補助を必要としていますか?サプリを摂ることで、健康を増進することができますか?

日本やドイツのような豊かな国に住んでいれば、そして自分の好みに応じて、ある程度普通で健康的な食生活を送っていれば、元気に生きるための必要な栄養のすべては、十分に摂取できています。その上で何かを補助する必要は、一切ありません。

普通に食べているのに、生命を維持するため重要な成分が足らない状況になれば、問題は食べる量ではなく、体の摂取機能にあると考えたほうがいいでしょう。何らかの急性、あるいは慢性的疾患によって、ある特定な成分に対する、体(腸、肝臓など)の吸収機能や消化能力が低下していると、量を増やしても体は摂取できません。その背景にある不調を直さなければなりません。

明確な医学的な理由から、短期的にサプリを「医薬品」として飲む場合を別にして、サプリは、自分の健康や病気予防のために積極的に「何かをやっている」というような気休めにしかなりません。

「別にそれでも悪いことはないでしょう。気休めになればいいじゃない?」という考え方があります。残念ながら、話はそんな簡単に終わりません。

というのは、サプリメントメーカが(直接的、あるいは間接的に)提示する研究を除けば、ほとんどの中立な医学的な研究は、サプリの長期に亘る使用は、飲む人の健康にメリット(益)が全くないだけではなく、デメリット(害)の可能性の方が大きいという結論に達しています。

サプリが健康を保つために良い、という伝説に最後の幕を引いたのは、2013年12月に Annals of Internal Medicine (AIM)に掲載された、米ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らによる研究論文でした。その雑誌の社説に、こんなタイトルが踊りました:

もう十分です。ビタミンやミネラルのサプリメントにお金を費やすのはやめましょう!(Enough Is Enough: Stop Wasting Money on Vitamin and Mineral Supplements)

この社説から引用します。

「結論は簡単です:ほとんどのサプリメントは、慢性疾患や死亡を予防することができません。サプリメントを使う根拠はありませんし、サプリメントは摂らないほうがいいのです。」(The message is simple: Most supplements do not prevent chronic disease or death, their use is not justified, and they should be avoided.)

「抗酸化物質、葉酸、およびビタミンB群は有害である。ないしは慢性の疾患予防に効果がありません。サプリメントの大規模な予防試験はもう正当化できません。」(Antioxidants, folic acid, and B vitamins are harmful or ineffective for chronic disease prevention, and further large prevention trials are no longer justified.)

「結論として、ベータカロチン、ビタミンE、もしくはビタミンAの高い含有量のサプリメントは有害です。他の酸化防止物質、葉酸とビタミンB群、およびマルチビタミンやミネラルのサプリメントは、主要な慢性疾患による死亡や罹患率を低くする効果はありません。」(In conclusion, beta-carotene, vitamin E, and possibly high doses of vitamin A supplements are harmful. Other antioxidants, folic acid and B vitamins, and multivitamin and mineral supplements are ineffective for preventing mortality or morbidity due to major chronic diseases.)

「論争はもう必要ありません。充分に養われている大人の食生活をミネラルやビタミンのサプリメントで補助するのは、明確な利点がないどころか、有害でさえあるかもしれません。これらのビタミンは、慢性疾患の予防のために使用すべきではありません。もう十分なのです。」(We believe that the case is closed — supplementing the diet of well-nourished adults with (most) mineral or vitamin supplements has no clear benefit and might even be harmful. These vitamins should not be used for chronic disease prevention. Enough is enough.)

医学の堅い研究がこういう結論に至っても、アメリカや日本でサプリの売り上げが年々に伸びています。国民の税金で国民の健康のため行なわれている研究より、サプリメーカーや広告代理店の儲けを重視するという、我々の社会が抱えている大きな矛盾がここに現れています。

何故サプリメントの摂取が人間に良くないのか、少し考えてみましょう。

どれほど人間に必要、体に良いといっても、すべての良いものは、度を越えれば、体に悪いものになり得ます。味や代謝のために不可欠な塩さえ、大量に摂れば、(飲み込むことができても)体は直ちに排出します。

パラケルスという16世紀の名医の有名な言葉があります。「すべてのものは、毒である。毒のないものはない。ものの毒性を消すのは、その分量だけだ。」(Alle Dinge sind Gift, und nichts ist ohne Gift; allein die Dosis machts, daß ein Ding kein Gift sei.)サプリメントも同様です。

微量で体に不可欠なミネラルやビタミンを摂りすぎると、すぐ毒にならなくても、生きている体の代謝の微妙なバランスを守るために、その余分を絶えず処分しなければなりません。ただし、大腸を通じて体外に排出するものもあれば、肝臓で分解してから排出しなければならないものもあります。どちらにせよ、大腸細菌や臓器の働きに不自然で余計なストレスをかけます。

サプリメントにはもう一つの問題があります。生きものがもとより自然に自力でできるはずのことを、長期的、習慣的に、外的な手段によって(他力で)補うと、様々な機能や能力が衰え、弱ってしまいます。足を骨折した後、リハビリに松葉杖が必要かもしれませんが、その杖を必要以上に長く使うと、却って逆効果になってしまい、足が弱くなるのと同様です。長い間頼ってきた睡眠薬を止めたいと思っても、体がその薬のおかげで自然に「寝つける」能力を忘れてしまい、なかなかやめられないのも同じです。それと同様に、元々自然な食材から、消化や腸内細菌の活発な働きに吸収すべき、あるいは同化すべきものを、長い間サプリの形で与えると、体の吸収や同化力が鈍って、弱ってしまう可能性があります。

要するに、サプリが害をもたらしうる理由は、その「量の余分」にあります。そしてもう一つは、その「質の貧しさ」です。

サプリという形で摂るミネラルやビタミンは、自然な素材から抽出された、ないし化学的生産工程を経て合成された、極めて加工度の高いものです。リンゴやさつま芋の中のビタミンCは、生きているものが成長しながら数え切れないほどたくさんの複雑な代謝過程によって作り出した成分です。サプリのビタミンCは化学工場で作られたアスコルビン酸です。もちろん実験室でリンゴからビタミンCを単離し化学的に分析すると、同じ化学式を持つアスコルビン酸が見つかります。大切なのは、リンゴを食べると、その成分が単離された形ではなく、数え切れないほどたくさんの、他の生きるために大切な成分が一緒に摂れることなのです。マルチビタミンを飲んでも、せいせい10-15種類の単離された加工成分です。長年にわたる進化で発達してきた、自然の生き物の「中身」と、近代科学の約200年間の研究に基づく加工されたサプリの内容物は違います。

有機生物学者の推計によりますと、採りたてのリンゴはおよそ1.000種類の成分を含んでいます。その多くは、まだ識別されていない生理活性物質です。それと似たような話で、リンゴを食べている人間は、(それも推測ですが)100兆(100.000.000.000.000)個の細胞と、その数をはるかに上回る(体の中と表面に生きる)微生物でできています。一人の細胞を一個ずつ列に並べると、地球を50周する列になります。その想像しにくいほど数多くの細胞の一個ずつの中で、(それも推測ですが)毎秒平均、10万の生化学反応が起こっています。

現代人は、一個のリンゴが含む成分のうち、わずかしか知らず、人体の細胞の代謝もほんの少ししか分かっていません。サプリが健康にいいという夢物語は、「生命」や「生きること」の、表面的で無骨な理解に基づいています。

結論:高いサプリよりは、美味しい(できれば自然農法の)リンゴを食べたほうが良いです。日本では、リンゴも結構高いですが、サプリより美味しいです。そしてサプリよりたくさんの体に良いものを自然な形で、いいバランスで提供してくれます。リンゴを食べるときに大切な事があります。きちんと洗ってから、皮を剥かずに食べるのがオススメです。リンゴの生理活性物の8割が皮とその真下に集まっていますので。