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2022.08.31

人間はどうして病気になるのか?(2)

ハーネマンが病気の原因について語る。その2

前回のブログで述べたように、ハーネマンは「Heilkunde der Erfahrung(経験の医術)」という論文において、病気になった人間の個別治療の必要性を強調する文脈で、病気の原因について説明しています。我々人間は、宇宙に存在するすべてのものと親和しつつ、また戦いつつ、深く繋がっており、それ故、人間の身体に影響を及ぼす、病気にする要因は数えられないほどたくさんある、というお話です。

その抽象的な説明をよりわかりやすくするために、論文の3ページにも渡る長い注釈を使って、ハーネマンはその要因の具体例をいくつか書き出しています。この注釈を、下記に日本語へ訳出します。ドイツ語の原文は区切りなしで書かれていますが、読みやすくするため、適当に改行や段落を入れておきます。


注)「見当もつかないほど沢山ある、我々生命体に対する作用力をもち、影響を及ぼすもののうちの幾つかを挙げます:

数えられないほどのたくさんの匂いの種類、
無機物や有機物から発散される、多かれ少なかれ害をもたらす物質、
大気、仕事場や家の中、我々の神経に影響を及ぼす、あるいは水・土・動物や植物から我々へと伝わってくる、様々な刺激性を持つ、個々別々のガスの種類; ーー

元気を保つために不可欠な食料の不足、新鮮できれいな空気の欠如、 ーー

日光の過剰ないし不足、
両方の電気の種類の過剰ないし欠如、
 [ 訳註:18世紀後半に電気の研究が盛んになり、生物電気が動物の中で働くことがわかって、生物学や医学においても注目されました。電気には2つの極性があるので、当時、2種類の電気という言い方もありました。]
大気の気圧の変化、大気の湿気ないし乾燥、
まだよく知られていない、特有の気候や地理条件が持つ特徴:高い山岳地帯、標高の低い場所や深い谷、広い平地、水や植物がない枯野、海、沼、山、森、さまざまに吹く風 ーー


非常に変わりやすい天気、ないしあまりにも長く一様に続く天気の影響、
嵐や台風の影響、流れ星の影響 ーー

空気の極端な冷たさないし暖かさ、
薄着で体が冷えること、ないし着た服や暖房の使いすぎによる過剰で人工的な暖かさ、
色々な服装による体の個々の部分の窮屈さ ーー

食事と飲み物の冷温の加減、
空腹と喉の渇き、あるいは食べ過ぎや飲み過ぎ、
そして飲み物と食べ物が持つ、有害で薬効的な、体の調子を変える力、
もともと自ずから有害な力を持つものもあれば
(ワイン、ブランディ、多少有害なハーブで味付けられたビール、異物を含む飲用水、コーヒー、お茶、国内外のスパイスとハーブ、このスパイスとハーブで味つけられた料理、ソースやリキュール、チョコレート、ケーキ、我々が味わう色々な野菜と動物の、まだ知られていないダメージ与える、ないし健康状態を変える有害な力)、
不十分で粗雑な調理や腐敗、意図しない誤りあるいは意図的な混入によって有害に変化するものもある
(十分発酵させていない生地で作ったパン、十分焼いていないパン、火を完全に通していない肉や野菜料理、あるいは他の様々に傷んでいる、腐っている、黴びた食品、ないし利欲のため変造された食品、金属器で調理された、ないし保管された食べ物と飲み物、人工的に毒されたワイン、危険な科学物質によって酸味をつけたお酢、病気の動物の肉、石膏または砂でかさ増しした粉、有毒の種子を混ぜた穀物、悪意、貧困、無知のために、危険で有害な植物と間違えられた、または混同された野菜) ーー

体、服や住まいの不潔さ、
調理や保管の際、不潔と手抜きによって食品に混入した有害なもの ーー

産業や工場で使われる材料の、様々な有害物質を含む、人間の身体に入り込む粉塵 ーー

公益を保護するため、権力者が施すべき必要な施策の怠慢 ーー

あまりにも強烈すぎる体力の使い方、
速すぎる、受動的または能動的運動、
身体の個々の部分の過度な排泄、
疲労させる、個々の感覚器の不自然な使い方、
様々な職業に伴う、体に無理を強いる色々な不自然な姿勢 ーー

体の個々の部分の運度不足、
あるいは体を完全に動かさない一般的な非活動 ーー

休み、食事、仕事の時間があまりにも不規則的であること ーー

睡眠不足、または睡眠過多 ーー

頭や精神を疲れさせる、度を超えた頭脳労働、
精神や心を非常に興奮させる、ないし疲れさせる仕事、
自分に合わない、不本意で、強制的な仕事、
読書、教育、習慣、人付き合いによって身についた、忌まわしい、神経を削るような欲望と悪癖 ーー

性欲の悪用 ーー

良心の呵責、
家の、重く陰鬱な経済状況、
屈辱的で悲しい家庭や家族関係の状況、
恐怖、驚愕、悩み、​悔しさ、憤り、怒り、などなど」

時代が違うため、言葉や言い回しが多少古臭く聞こえることもあるかもしれませんが、ハーネマンがここで語る、自分の調子を狂わせる、ないし病気にさせる要因、その真実や現実性には有効期限がありません。現代社会にも、我々の生活や生き方にも、そのまま当てはめることができます。

次回のブログでは、ハーネマンが(不思議と)この注釈の中で触れていない、しかしその後の出版物で非常にはっきりと指し示す、病気の原因について書きます。