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ホメオパシーと食生活(その1)
「早く元気になるため、病気にならないために、どんな食生活やダイエットがお勧めですか。」と聞かれることがあります。簡単な質問のように見えますが、そう単純に答えられません。なぜなら、その人にあった健康的な食生活は、その人の中に見出すもので、一般的なガイドラインはあてにならないと僕は確信するからです。100人いれば、100通りの健康的な食生活があります。万人に効くダイエット、といった類の話は、どれほど優れた専門家たちが勧めようとも僕は眉間に皺を寄せます。医食同源という言葉が示すように、健康と食生活は深く繋がっていますが、そのつながりは極めて個人的で多様なのです。
●● 食の好き嫌いとレメディーの選び方
ホメオパシーの診察では、必ず患者の食生活についても話します。その目的は、患者に健康的なダイエットを勧めるためではなく、飲食に関する本人の好き嫌いや習慣を理解するためです。
「牡蠣が嫌い」「イチゴは大好きでたまりません」「焼け焦げた肉が一番すき」「カリカリに焼き上げたハムをよくたべます」「薫製ハムが大好物です」「出来れば、一日三回でも卵を食べたい」「牛乳は嫌いで飲めません」「ビールは美味しいと思わない。ワイン、主の赤ワインを飲みます」「ダークチョコレートは、あれば毎日でも食べます」
食生活の好みは、患者が必要とするレメディーを選ぶときに、ときどき大事なヒントをくれます。ハーネマンも、「個人化していく診察」(上記のブログを参照)のため、患者の飲み物と食べ物の好き嫌いについて聞くことを勧めています(オルガノン 第6版 §81)。マテリアマディカ(レメディーの特徴、効能範囲や症状をまとめる本、ホメオパシーの薬剤集)とレパートリー(逆に、どんな症状にどんなレメディーが適用するのか、を調べられる索引本)には食べものや飲みものに関する項目がたくさん載っています。
もちろん、200年の間、主に欧米人の治療で得た臨床データを、直接そのまま日本人に当てはめようとしても、無理が生じる部分も多くあります。例えば、ドイツ人の「パン大好き」と日本人の「パン大好き」を同じような「好み」として捉えられるかどうかは微妙です。日本のパンとドイツのパンは、材料も製法も大きく違いますし、両国の食文化において、パンが占める位置もかなり違います。逆に「納豆はきらい」「お刺身、特に赤身はだい好き」という好みは、まだどんなマテリアメディカやレパートリーに含まれていません。
患者の食べ物の好みだけでなく、本人が自分の好き嫌いの語り方も、その人の調子や人生との関わり方を良く表しており、レメディーを選ぶための大事な情報源です。「どういう食べ物が特に好きですか?」という質問に対して、「嫌いな食べ物はありません。何でも食べます」と答える人。「マンゴーラッシー。イチゴ。アルデンテのスパゲッティにフレッシュなトマトで作ったソース。ほかには、、」と答える人。その二人がたとえ似たような症状で悩んでいても、必要なレメディーは大分違います。
●● からだの声を聞く
体調の変化によって、「美味しさ」が急変する経験は、どなたにもあると思います。風邪を引いたとき、食欲がなくなる。一日あまり慣れていない肉体労働で頑張った後、普段は全く興味のない甘い物をめちゃくちゃ食べたくなる。会社でストレスの多い日が続いていて、普段は週末だけに美味しく味わうお酒を、毎晩飲まないと何となくリラックスできない。妊婦が食事の臭いだけで気持ちが悪くなり、もどしてしまう。あるいは何日間か、ちょっと変わった食欲になるー例えば鶏肉ばかり、柑橘系ばかり食べたくなる。何となく機嫌がすぐれない日は、普段大好きなおやつも、全く美味しく感じないし食べたくない。(もちろん逆なケースもあります:大好きなお菓子をもらうと、ぐずっている子供が急におとなしくなります。)
人間の食欲や好き嫌いは、体調や調子によって微妙に左右されるもの。食欲や好き嫌いを通じて、生命力は我々に語りかけているのです。自分の調子やバランスを保つために今、何が必要なのか。早く健康を取り戻すために、どんな物が一番良いのか。ですから病気になった時には、自分の心や体が求める好みに素直に従い、食べたり、飲んだりするのが一番良いのです。
例えば、突然子供が調子を崩し、熱、下痢、咳が出る。そんなときも、周りの大人が良かれと思って食べさせるより、子供の要望を聞いてあげたほうが、調子が早く戻ります。
「暖かい牛乳が欲しい」「りんごが食べたい」「冷たいオレンジージュースがいい」「なにも食べたくない」「パイナップルを下さい」熱が高いのに「熱々のお湯を飲みたい」 インフルエンザが治り始めたら、急にアイスクリームが欲しくなる。しんどそうに咳をしているのに、氷水を飲みたい。熱が長く続いているのに、なにも飲みたくない。普段は薄味の子供が、塩をかけたくなる。汁物やスープの他になにも食べたくない、などなど。
人それぞれ、病気のときは経過と調子に応じて、欲しいものが変わります。この身体の声に従えば、回復への近道が拓かれます。そしてホメオパスの僕にとっても、患者のそのときの素直な好き嫌いが分かれば、レメディーが選びやすくなります。
こういう正直な体の声を時々分かりにくくするのは、自分の要求(あるいは子供の要求)を覆い隠す「常識」です。「食べないと、元気なりません」「そんな冷たい物が駄目です」「たくさん汗をかいたので、ポカリスエットを飲んだら」
発熱、インフルエンザ、水疱瘡などの急性病にかかったとき、僕はできる限り病人の素直な要求を聞き出すように心がけています。そのためには、「はい」とか「いいえ」としか答えられない質問より、選択肢を広くするような聞き方が適しています。「お粥を食べますか?」ではなく「お腹はどう?」、空いていると分かれば「何を食べたいの?」といったやり取りが、患者が今、自然に欲しているものを教えてくれるのです。
大珠慧海(唐時代の禅僧)の「飢来喫飯困来即眠」という有名な禅語があります。悟りの心境を表す言葉だそうです。悟りを勧めるわけではありませんが、「腹が減ったら食う、疲れたら眠る」という言葉が示すように、自分の身体の声に素直に耳を傾けるのが、病人にふさわしい食生活と生き方です。(続く)
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