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2015.05.02

ホメオパシーと食生活(その2)

(その1)からつづく

●● からだの声が聞こえない

自分の身体の声を聞く。子供にとっては特に学んだ記憶もないような、自然に与えられている単純な能力ですが、大人になった途端、得てして難しくなることが多いものです。

このごろの教育システムでは、多くの人が、自分の五感で感じることより、活字やテレビ、ネットなどのメディアによって提供、配布される情報を信じるように育てられています。経験や感受性より、知識や情報を優先する現代社会において、病気になった時に突然、「身体の声を聞く」と言われても簡単ではないのは当然です。そのときの自分の感覚を信じて従うよりは、頭にインプットされている常識的な知識やマニュアル、あるいはどこかで見聞きした一般的なアドバイスに従う方が安心です。それが権威ある専門家のアドバイスとなれば、大多数の人は自分の感性など顧みず、勧められた方向に走りがちになります。

とはいえ、早く元気になりたかったら、自分の感覚、もっと大きくいえば自分の主体性や個人性を大事にする必要があります。体調の崩し方も自然治癒力の働きも人によって違います。ですから自分の感覚を信じ、体の声に従って飲んだり食べたりするのは、たとえ常識から外れていようと、元気になるために最も適した食生活だと思います。

情報過多で頭でっかちの人だけではなく、若い頃から「我慢」を美徳にするように育った人も、身体の声を聞く能力が鈍る傾向にあります。そしてもう一つ、この能力と感覚を消耗してしまう、怖いものがあります。「習慣」です。物事をを習慣的に進めるようになれば、身体の声を聞く重要性さえ感じなくなります。習慣は耳栓になります。けれども心配はありません。幸せにも、この能力はもともと先天性で、いつでもまた甦らせることが出来ます。耳を傾ければ、もう感じないと思っていた身体の声が、少しずつ聞こえられるようになります。

●● からだの声が間違っている

私は自分の身体の声を聞いています、従っていますという人でも、この声自体に問題があるときがあります。これまで述べたことは、ある程度健康な人が急に病気にかかった時、いわゆる急性病に当てはまります。慢性病になると、事情はもう少し複雑です。

慢性病の多くの場合、食生活の好みは、長く続いている不調によって病的に偏ってしまいます。そうなると、自分の身体の声は、元々備わっている健全な生命力と、早く元気を戻そうとする自然治癒力の表れではなく、調子を失って痛んだ生命力と、それを自力で戻せなくなった、弱っている自然治癒力の表現です。その歪んだ声に無防備に従うと、病気が一層深まって長引く危険性があります。

例を挙げましょう。すでに乳歯の生え揃えた子供が母乳を飲まないと寝付けない。母親がおっぱいをあげないと、周りが耐えられなくなるまで大泣きし、最終的に自分の意志を通す。この母乳に対する欲求は、早く成長したい元気な食欲の表れというより、乳離れのプロセスがどこかでスムーズに進まなくなり、停滞している印です。どうしてそうなったか、家族それぞれに独特な背景がありますが、大事なのはその原因を探り、年頃に応じた親離れのプロセスを応援することです。そうしないと子供の自立が段々遅れて、母親も必要以上に疲れてしまいます。逆におっぱいから離れるにつれて、子供の食べ物の選択肢が増え、自分の本当の好き嫌いをもっと幅広く発見できるようになります。

もう一つ、とても単純な例を挙げましょう。血糖値と血圧が非常に高い患者が、次のように語ります。「毎日晩酌します。日本酒が大好き。だいたい食事の後、4合ぐらい飲みます。必ず晩ご飯のあとに欲しくなります。そのかわりご飯はあまり食べません。飲むと調子が良くなります。気分もいいし、胃袋の辺にいつも感じる鈍い痛みもなくなり、良く寝れます。飲まないと寝付けません。」 その患者に「ぜひ自分の身体の要求に従って下さい。どんどん飲んでください」とは勧めません。その人の酒に対する依存的な要求は、健全な生命力によるものではなく、慢性化しつつある、あるいはすでに慢性化した生命力の乱れや生き方の不調に由来するものです。

慢性的な病気に悩んでいる人は、食べ物の良し悪し(美味しさ/不味さ)だけではなく、自分の人生や生活における良し悪しを区別する感覚が弱っている傾向がみられます。気が病むために感覚が鈍るのか、なんらかの理由で感覚が乱れたことで十分に育たたず、気に病み始めたのか。鶏と卵のような話ですが、ひどい場合には悪循環が生じます。酒の覚醒剤的な使い方によって、身体がさらに痛み、生活がもっと大変になる。痛んだ身体やアンバランスな生活を耐えようと、酒の量と頻度が増える。

もちろん、こういう悪循環は止めることが出来ます。時間はかかるかも知れませんが、患者の生命力や生活の不調を治せば治すほど、自分の本当の好き嫌いを感じ取る感覚が少しずつ磨かれます。そして日々の暮らしと人生を生きていくために、良い(美味しい、必要な、応援する)ものを増やして、悪い(不味い、余計な負担をもたらすもの)を減らせば、病気の治りも早くなります。

実際に、ホメオパシー治療によって、患者が少しずつ元気なると、食べ物に対する要求が自然と調整されて来ます。食生活だけに留まらず、自分の本来の要求に従いながら、よりバランスを取れた生き方に近づいています。アルコールに依存気味だった患者が、酒を睡眠薬や覚醒剤として利用しなくてもよくなり、自分の本当の好みや要求に素直になれるという具合です。「今晩はジンジャーエールが美味しい。今はスパークリングウォーターがいい。このチーズにイタリアの赤ワインが欲しい。」より広い選択肢から好きなものを選べる、より自由で充実した生活が見えてくるのです。