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痛みの「様相」はなに?
前回のブログ『痛み止めとホメオパシーについて』で、「痛みの具体的な様相」について話をしたところ、読者の方から「それが何を意味しているのか」というご質問をいただきました。そこで、ホメオパシーが痛みのことをどのように診察するか、ここで紹介したいと思います。
アロパシー医学では、痛みは主に感じる場所やその病理的背景によって分類されています。神経痛、三叉神経痛、坐骨神経痛、歯痛、腰痛、喉の痛み、関節痛、頭痛、筋肉痛、鬱血による痛み、痛風性の痛み、リューマチ性の痛み、など。ほとんどの場合は、これ以上細かな診察や分析はしません。しかし実際のところ、痛みは大変多様で、たくさんの痛みの感じ方や表れ方があります。これを「痛みの性格」といってもいいでしょう。
例えば普通、「頭痛」とひと言で片付けてしまう痛みは、どこで感じるかによって随分違います:額、こめかみ、右か左、両側、後頭部、頭頂、脳、目の奥など。
場所だけではありません。痛みには時々、独特の空間的な広がり方があります。例えば:頭痛が右の肩まで広がる。胸中の痛みが左腕まで走る。喉の痛みが耳に響く。胃の痛みが背中まで広がる。左のお尻や太ももの後ろまで広がる坐骨神経痛もあれば、全体の右足の表側で、親指まで走る坐骨神経痛もあります。扁桃腺の痛みは、人と時によって、左と右に及ぶケースもあれば、主に左、あるいは主に右が痛いケースもあるし、右と左(右と左)を往復する痛みもありえます。時にはとらえどころなく、絶えず場所を変える痛みもあります。実は、痛みにはこのような例が数限りなくあるのです。
時間性を見ても、痛みにはたくさんの特徴があります。じわじわと広がる痛み。突然に来る痛み。波のように寄せてくる痛み。突然に始まって、ゆっくりと引いていく痛み。ゆっくり増して、突然止まる痛み。毎年同じときに繰り返される痛み。朝だけ頭がとても痛くて、昼間と夜は何ともない。毎日夕方だけに痛くなる。周期的な痛み。断続的な痛み。慢性的な痛み。発作的な痛み、などなど。
痛みの特徴と感じ方は、患者ひとりひとり皆違います。ホメオパシーでは、これらの個人的で具体的な痛みの有り様や表れ方を、専門用語で「様相(Modalität, modality)」と言います。痛みはどいう特徴を持っているのか、何によってどのように悪化するのか、あるいは改善するのか。時間性や空間性以外に、痛みを左右する要因がたくさんあります:天気、温度、体の姿勢や動き、精神状態や気持ち、食べること飲むこと、など。
喉の痛みの具体例を挙げましょう。ある患者の喉の痛みは、風邪と咳とともに三日前に始まって、継続的に強くなったきた。痛みが喉全体に感じて、日中はずっと痛い。夜寝るときは邪魔しない。咳をすると痛みを非常に強く感じる。食べ物を飲み込むときに痛みが悪化するが、飲み物は平気。冷たい飲み物は痛みを和らげる。唾を飲み込んでも、そんなに痛くない。
別の患者の喉の痛みは、風邪とは関係なく三日前に急に始まった。特に朝はとても痛い。喉の奥左の痛みが一番強い。液体を飲むときに、痛みが悪化する。温かい飲み物は特にひどい。冷たい飲み物はどちらかといえば少し楽。首を触ったり、頭を回すと痛みが増す。
普段、自分の痛みをそんなに細かく観察したり、感じたりすることはありません。病院に行っても、痛みの細かい診察なしに痛み止めが処方されます。ホメオパシーの場合、痛み(とその原因)に効くレメディーを決める為に、痛みの診察は欠かせません。患者個人の痛みの具体的な様相を細かく把握しながら進みます。
別の例を挙げてみましょう。ぎっくり腰になった時の痛み。ある人は痛みを背中の下の方、背骨より右に感じる。背中をまっすぐ伸ばせないし、立つことも、歩くこともできません。ちょっと動いても、耐えられないほど痛い。安静にすれば、痛みは感じません。痛みは時々腿の付け根まで広がる。
別の人は、ぎっくり腰になった時に、痛みが腰全体に広がります。痛みで体を前にも後ろにも曲げられない。長く座ると腰の痛みが悪化する。立ち上がった時もすごく痛いが、歩けば歩くほど痛みが引く。ベッドに寝ると非常に痛い。仰向けも、うつぶせも、横たわっても、じっとできない。ずっと寝返りしないと痛みを耐えられない。硬い床に寝ると少し楽になる。痛いところを温めると痛みが引く。
たまには患者さんの痛みの個人的な様相だけで、すぐにふさわしいレメディーが分かることありますが、多くの場合、本人全体の調子をもっと聞かせてもらうことが必要になります。本人の精状態、気分、調子が崩れたきっかけ、そして(直接に今苦しんでいる痛みと関係ないと思っても)他の身体的な変更や不調も大事な手がかりです。
痛みを診察する時に、もう一つの大きな様相があります。痛みがどういう感じの痛みなのか。どいうふうに感じられるか。鈍い痛み。鋭い痛み。焼けるような痛み(ヒリヒリ)。叩かれるような痛み。拍動するような、脈打のようにくる痛み(ズキズキ)。捻られるような痛み。突き刺されるような痛み。針(もしくはナイフ、槍)に刺されるような痛み(チクチク)。咬まれるような痛み。圧迫されるような痛み。抑えられるような痛み。気が遠くなるような痛み。気を狂わせるような痛み。稲妻のようにくる痛み。電撃的な痛み。収縮するような痛み。引っ張れるような痛み。引きつられるような、痙攣のような痛み。打撲されたような痛み。切られるような痛み。引き裂かれるような痛み。くじかれたような痛み。裂けられるような痛み。叩き割ったような痛み。貫かれるような痛み。掘られるような痛み。ぶち砕けるような痛み。つぶされるような痛み。弾かれるような、破裂されるような痛み。締めつけらるような痛み、などなど。こういう痛みの感じ方や性格のリストはほぼ無限に書き続けられます。
とはいえ、この列挙は芥川賞候補者の創造力によるものではありません。これら痛みの様相や性格の表現の全ては、昔からホメオパシーのマテリア・マディカ(レメディーの特徴、効能範囲や症状をまとめた本。ホメオパシーの薬剤集)とレパートリー(こちらは、どんな症状にどんなレメディーが適用するかを調べる索引本)に使われる言葉の日本語訳です。この痛みについての表現の豊さは、ホメオパスたちの治療と臨床経験の記録に由来するものです。ホメオパシーの医師がどれほど患者の主観的な調子を重視し、その調子をきめ細やかに診察しようとしているのを物語っています。
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