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花粉症について。(1)花粉症の歴史と発生
今回のブログは、3回に分けて花粉症について書いています。
(1)花粉症の歴史と発生について
(2)花粉症の病理について
(3)個人の花粉症の発症と治療について
全て読んでいただければ、花粉症やアレルギー疾患の一般的な原因とホメオパシーの健康論について、より深い理解に繋がるのではないかと思います。
(1)花粉症の歴史と発生について。
病気にも歴史があります。人類にとって古い病気もあれば、新しい病気もあるのです。結核は人類の最も古い病気の一つです。紀元7.000年前の新石器時代の集落で発掘された骨や、紀元3.000年前のエジプトのミイラからも、結核の跡が見つかっています。喘息のような症状は、紀元前2.500~1.500年ごろから、すでに中国やバビロン、エジプトの医学書に記述されていたといいます。コレラは少なくとも紀元600年前以降、インドのガンジス川や谷に存在し、19世紀の初めから疫病として広く蔓延したようです。
現代の「花粉症」と呼ばれる病気は、人類にとって非常に新しい病気です。古代ギリシャやローマ時代、あるいはイスラム文化圏の医学書を見ても、花粉症の症状を示す病気は記述されておらず、当時は花粉症という病気は一般的ではなかったと思われます。花粉症の症状が、初めて医学の視野に入ったのは、19世紀初頭のイギリスでした。いち早くその症状を的確に描写して、一つの病気として特定したのは、子供の頃から毎夏に花粉症の症状で悩まされたイギリス人医師の John Bostock (ジョン・ボストク, 1773- 1846)でした。当時の医学ではその病理がまったくわからなかったため、Bostock catarrh(ボストクの風邪)、summer cold, catarrhus aestivus (夏風邪)、hay fever(枯草熱)、hay asthma(枯草喘息)などの様々な名前で呼ばれました。
(PDF: John Bostock’s first description of hayfever)
この新しい「風邪」は、19世紀の前半に非常に早いスピードでヨーロッパやアメリカで流行るようになりました。また不思議なことに、主に街に住んでいる、教養の高い人たちや富裕層の内で盛んでした。いま花粉症で悩んでいる人にとっては、ちょっと理解しにくいかもしれませんが、19世紀の後半まで、花粉症は一種のステータスシンボルでした。野暮でがさつな田舎者や植民地の原住民は花粉症にかからなかったため、花粉症は、感受性や教養が高く、進歩的で開化的な社会層の特権であると見なされ、悩みながらも誇りに思う人が多かったのです。(その独特な流行り方の理由は後ほど解説します。)
「summer cold」とか「hay fever」の名前が語るように、この疾患の原因は、夏の気候変動、夏の独特な空気の流れ、干し草の匂いなどに関係すると考えられていました。英語やドイツ語には、これらの古い名前(hay fever, Heufieber)がまだ一般的な病名として残っていますが、花粉症という日本語の病名が表すように、この「風邪」は花粉による疾患です。これは、1873年に Charles Blackley というイギリスの医者が自己実験を通じて初めて明らかにしました。(PDF: Charles Blackley, Experimental researches on the causes and nature of Catharrus Aestivus, Hay-Fever or Hay-Asthma)
「花粉による病気」だろうが、いくら「今年の花粉はひどい」と訴えようが、いうまでもなく、花粉には何ら悪いところなどありません。花粉は自然の生殖力ですから、花粉がなければ、自然の大部分が全滅してしまいます。花粉は今も昔も変わらず飛んでいるのに、19世紀以前には、花粉症のような病気は一般的に流行りませんでした。花粉症の原因は花粉ではなく、花粉に対して敏感に、そして過剰に反応する人間にあります。花粉症はアレルギーの一種なのです。
アレルギーという概念も、その名前が括る疾患に対する病理の理解も、オーストリアの小児科医の Clemens von Pirquet(クレメンス・フォン ピルケ, 1874 – 1929)の研究に由来するものです。ピルケは1906年に書いた「Allergie」という論文で、人間の免疫系の働きについて、新たな理解を提案しました。これまでの医学では、人間の免疫力は外部から人体に侵入する悪いもの(主に微生物:ウイルス、細菌、真菌など)に対して、体を守るために、その悪いものを監視し、絶やすように働く力だと考えられてきました。しかしピルケは、免疫力が必ずしも悪いものに対して自己防衛的に働くだけではなく、場合によっては、自分の体を攻撃する力を発揮すると気づきました。そしてこの変わった免疫系の反応を「Allergie」と名付けました。ギリシャ語のアロス(ἄλλος, állos = 異なる、変わった、違う)と エルゴン(ἔργον, érgon = 作、行為、働き)から作られた言葉です。
確かに、花粉症は免疫系の変わった働きです。もとより反応しなくてもいい、そして実際に大半の人が反応しない花粉に対して、自分の体を害し、日常生活が苦しくなるまで反応してしまいます。花粉症を含めて、アレルギー反応とは、免疫系が自分にとって良いものと悪いものを正しく識別できなくなる症状です。まるで酔ったお兄ちゃんが喧嘩する時に、味方と敵を区別できなくなって、友達を殴り始めるのによく似ています。アレルギーや花粉症は、混乱している免疫力から生じる不調なのです。(続く)
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