Blog
ある患者への手紙(1)
飛行機、電車、車のない時代には、遠い町に住む名医にかかりたいと思っても、治療のための長い旅行に出て、その医者のところを訪ねることのできる人はわずかでした。それでも望みの医者の助言が欲しいと思えば、手紙を書いて、治療のアドヴァイスを頼むしかありませんでした。
そういう訳で、ホメオパシー医学の創立者であるハーネマンは、たくさんの「手紙患者」を抱えました。実はその手紙のやりとりに係る、たくさんのハーネマンの手紙が残っています。前にも一度ブログで紹介した、ボッシュ財団の医学歴史研究所には、これらの手紙が5.000通以上保管されています。当時の人々の生活、価値観、そしてホメオパシー治療の成り立ちに於いてもとても大事な資料です。
今回はハーネマンの手紙を一通、紹介したいと思います。この手紙にはハーネマンのワークライフバランス(work–life balance)についての考え方が見事に表れています。過労や過労死が普通の単語になってしまっている日本だからこそ、たくさんの人に読んで欲しい手紙です。200年前にドイツの小さな町に住んでいた人と、21世紀の資本主義社会の強制の下で、無理の多い生活を送っている現代人に、思いがけないほどの共通点があります。
手紙には日にちが書いていないのですが、おおよそ1800年7月に書かれたものと思われます。相手は、ゴータ(Gotha、18と19世紀にドイツ文化の一つの中心であるテューリンゲン地方の町)に住んでいた仕立屋さんです。その患者さんの手紙が残念ながら残っていませんので、どういう症状、どんな病気でハーネマンのアドバイスを求めたのか不明です。1793年から1805年までにハーネマンがその人に出した手紙が残っています。そこから察するに、決して軽い病気ではなかったようですが、ハーネマンの治療が良かったのか、患者さんがハーネマンのアドヴァイスをきちんと行動に移したのか、この仕立屋さんはハーネマンより長生きして、1851年に92才でなくなりました。(ハーネマンは1843年に88才でこの世を去りました。)
主にワークライフバランスと関係するところを抜粋して翻訳して、二回に分けて掲載します。ごゆっくり噛み味わって下さい。
「 ..... 人間(その非常に壊れやすい人間の機械)は、働きすぎるため、力を費やしすぎるため、活動しすぎるためにこの世に生まれてくるのではありません。人間が名誉欲のため、金欲のため、あるいは他の目的のために、こういうふうにやり過ぎれば、その目的が賞賛されようとも、非難されようとも、自然の摂理に逆らうことです。そして肉体的な損失となって、体の破壊につながります。まして、あなたのように前から体が弱っている場合には。一週間のうちに完成することができないものは、二週間で仕上げることができます。待ちたくないひとが居ても、あなたがそのひとのために惨めになって、お墓に入る寸前まで働き、そして未亡人と孤児を残すことになるのは、全く適切ではありません。より早い、より重い肉体労働だけではなく、あなたの場合、仕事のために必要な精神的努力と気遣いのほうが、より大きな害をもたらします。そして気ぜわしい精神がまた体を壊すのです。まず自分のために、その次にひとのために生きるという指針を身につけてください。こういう一人前の冷静さを獲得しなければ、治る見通しはあまりありません。あなたがお墓に入っても、人々は服を着て暮らすでしょう。それらはあなたが作った服ほど美しくないかもしれませんが。
しかし、あなたが賢人であれば、元気にもなれるし、長生きもできます。
癪に触ることに自分の耳を向けないようにしなさい。無理と感じることを断りなさい。急がされたら、よりゆっくり歩きなさい。そしてあなたを不幸にさせたい人たちを笑いなさい。自分のペースで楽に出来るものを仕上げて、完成不可能なものは、気にしないで下さい。
どれほど熱を持って仕事を頑張っても、それによって我々の経済状況は良くなりません。家計に回せるお金が多くなるだけで、所詮何も残らない。
節約すること、贅沢を減らすこと(どうせほとんどの場合、一生懸命仕事する人はその贅沢を最も味わえない)、そうすれば、より悠長な生き方を可能にします。言い換えれば、より理性的に、より思慮深く、より自然に、より明るく、より穏やかに、より健康に生きられるようになります。その振る舞いのほうがより褒むべきで、より明達で、より賢明ではないでしょうか。特に息を切らしたり、神経を必要以上に緊張させたり、走り回ったりして、最終的に我々の一番大事な宝物である、明るくて平静なこころや体の健康の破壊に至るよりも。」(続く)
SEARCH
RECENT POSTS
MOST READ
TAGS
Covid-19 免疫力 過労・バーンアウト 花粉症 冷え性 火傷 肺炎 インフルエンザ 自然治癒力 コレステロール ガン・腫瘍 こころの病 アレルギー サプリメント similia similibus コロナ 健全な食生活 予防接種 VAED レメディー ワクチン 予防 介護 痛み クラシカル・ホメオパシー Hahnemann マイクロバイオーム 健康保険 薬害 modality 歴史 名ホメオパス 正名 アトピー 副作用 医療とお金 医食同源 Heilpraktiker アロパシー 映画 対症療法 オーガニック 微生物 病気の原因 心と体 心臓病 セッション 感染病 放射線 救急処置 救急医療 本 根本治療 Less is More 障害 歯 治癒 喘息 熱 環境汚染 傷・怪我 生命力 牧畜のホメオパシー 発達障害 登校拒否 リハビリテーション 終末医療 ポテンシー 共生 自然医療 妊娠中のエコー検査 認知症 ADHD 風邪 コンビネーション・レメディー