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2013.11.03

冷え性のこととホメオパシー

この間、靴下三枚を履き重ねた女性がホメオパシーを受けに来ました。どんな訳で靴下三枚を履いているのかと聞くと、それが「冷えとり靴下」と言われ、足の冷え性対策として最近流行っていると知りました。僕はびっくりしました。靴下を何枚か重ねて履くことで足の冷え性が治るのか。あるいは、靴下屋さんの販売キャンペーンなのか。

重病から来る病理的な冷え性をのぞき、日本人の若い女性が訴える冷え性は、ほとんどの場合、あまり健康的でない生活習慣が原因です。運動不足、偏った食生活や家庭と仕事の忙しさとストレスによって、身体のバランスを守る治癒力と生命力が弱り、代謝や血行が悪くなります。そうすると生命力が身体の中心にある大事な臓器の機能を守るために、主にそちらに血を流して、中心から離れている足や手に、充分温かい血液を送れる余裕がなくなるのです。

週に2、3回、1時間程度の割合で、自分に合った楽しい、ちょっと息が上がって(ヒーヒー言うくらい)汗がでるような運動と、そして元気のいい素材で作ったバランスの取れた料理を食べれば、こういう冷え性は何ヶ月間で治りますし、おまけに普段の生活もパワーアップします。残念ながら現代社会では、特に仕事する女性であれば、そこまで自分自身を大事にできない(したくない?)人も多いので、もっと楽で便利に出来そうな冷え性対策が流行っています。

ネットなどで著しく目立つのが、何らかの方法で「足を温める」ことを冷え性対策として勧めていることです。足湯や冷えとり靴下がその典型的な例です。確かに冷たい足を足湯に入れると足が温まります。少なくとも寝るまでは。

そこで気をつけなければならない点があります。温めることで足が一時的に楽にはなりますが、却って冷え性が克服しにくくなるということです。冷えた足をお湯に浸けると、何が起こるか、考えてみましょう。

足が外から与えている温かさによって、つまり受け身的に、温かくなります。それで、代謝や治癒力に「足はもう温かい、これから自力で温めなくていいです。血行を改善する必要がないですよ」という情報が流れます。そして代謝や血液循環が頑張ることをやめて、足の血行が余計に鈍ってしまいます。元気な身体がもとより自分でできる機能を、外的手段や道具でかばい守ると、その機能自体が弱って行きます。必要以上に長い期間、杖に頼った生活をすると、いっそう足が弱まるということは、だれでも分かります。それと同時に、「温​」を与えることで「冷」が一時的に引きますが、足を24時間温め続けないと、前よりひどく冷えることが多いのです。

冷え性をもとから治したい方には、足を温めることではなく、足を冷やすことをお勧めします。毎日朝晩、足を(ふくらはぎまで)できるだけ冷たい水につけて下さい。最初は、自分が楽に耐えられる程度の時間から始めてみてください。10秒でも、2分でも、人それぞれです。冷たさがしみて、足がちょっと痛くなりはじめたら、足を出してタオルでよく拭き、足が温かくなるまで裸足で部屋を歩いて下さい。温まったら同じことを三回繰り返し。これを毎日2セット行います。続けていくうち、冷水に足をつける時間がびっくりするほど長く伸びて、普段の冷え性が段々治ってきます。

足をお水に浸けて、わざわざ冷やすと、足のほうから代謝や自然治癒力に「寒い!寒い!早く温めるように働いて下さい!」という呼びかけが働いて、自然治癒力が(よっぽど弱っていなければ)その呼びかけに応じて働き出します。足の血行が良くなり、冷え性が段々治ります。加えて生活習慣も少し改善しておけば、戻ることもないのです。どうぞやってみて下さい。

冷え性を「温」で一時的に楽にするのではなく、「冷」で根本的に克服する。それこそ、ホメオパシー医学の発想に通じる治療方法です。ホメオパシー(Homöopathie)という名前は、ギリシャ語のὁμοῖος (homoios:似ている)と πάθος(páthos:病)という言葉から作られました。ホメオパシー医学は、「似たものを似たもので」治す医学です。つまり、冷えを冷えで、というように。

冷え性を温で治そうとする治療方法は、ホメオパシーとの対立で「アロパシー」(Allopathie)と言ます。病気の症状(冷え)をその反対のもの、その異なったもの(ἄλλος állos:温)によって直そうとする試みです。従来の西洋医学的の処置の多くは、アロパシー的な考え方に基づくものです。多くの薬名の語頭に着く「抗」(Anti-)もそのアロパシー的なスタンスを語っています(抗生物質、抗うつ剤、抗ガン剤、抗炎症剤、抗不安剤、抗ウイルス薬、抗リウマチ薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬など)。

足の冷え性に悩んでいる方は、アロパシーかホメオパシーか、どちらに効果があるのか、どうぞ実験してみて下さい。

ちなみに、これらのことについて、ハーネマンは(レメディーの効き目を説明するところで)以下のように語っています。

「お湯に浸けた片方の手は、最初のうち、お湯に付けていないもう一つの手より温かい(一次作用)。しかしお湯から手を出して、完全に拭き取ると、その手が間もなく冷え始め、しばらくするとお湯に入っていなかった手より大変冷たくなります。(二次作用)。.....長い間、非常に冷たい水に浸けた腕は、最初のうち、水につけていない腕より淡く冷たくなりますが(一次作用)、冷たい水から出して、きちんと拭き取れば、その後もう一つの腕よりあたたかくなるだけではなく、炎症しているように熱く赤くなります(二次作用、生命力の反作用)。」医術のオルガノンより(Organon der Heilkunst § 65)。