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2023.07.20

2023年の穂高リトリートセミナー ・参加者の体験談(2) 

Living Homeopathy シリーズのリトリートセミナー「癒すこと、癒されること。治療家になるためのホメオパシー入門セミナー」も、今回で三度目の参加となりました。二度経験した穂高の秋は、その空気の澄んだ冷たさ、鮮やかな紅葉と実りの季節の恵みを存分に与えてくれましたが、初めて経験する新緑の穂高はまた格別でした。伸びていく木々や草花の勢い、鮮やかな緑と花々の香りに圧倒され、ダイナミックな生命の美しさをはっきりと見せてくれる自然の姿に静かに心を動かされる毎日でした。

昨秋の穂高でのセミナーから約半年間、オンラインのセミナーを通じて主にレメディの勉強と症例分析を行ってきましたが、全員で顔を合わせてじっくり、たっぷりと話し合うことのできる今回のメインテーマは「ケース・テイキング(セッション、診察、患者との話)の基礎」でした。エルマーさんの翻訳と解説をもとにハーネマンの『オルガノン』を皆で読みながら、基本となる考え方から具体的な進め方まで、長い時間をかけて取り組みました。ケース・テイキングが徹底的かつ完全でなければ、どんな名ホメオパスでも正しいレメディを見つけることができないということ、これがハーネマンが「ケース・テイキングが最も思慮深い仕事である」と述べる理由です。そのために治療家は「先入観のない虚心坦懐な心構え、健全で顕然たる感覚と感受性、丹念で注意深い観察」が必要であると学びました。ハーネマンのドイツ語は18世紀ドイツらしい修辞と論法を用いた難しい文体ですが、より実践的な指南を描写する箇所ではより簡潔にわかりやすく記されていることが印象的でした。自分がクライアントとして受けた診療の経験を時に思い出しながら、セッションを超えた人間同士のコミュニケーションや繋がりについても考えさせられました。

治療家に必要な心構え、持つべき感受性と注意力、これらを身につけるためにも大変重要なのが、ホメオパス自身が自分を健やかに保つことです。この意味でも、「医食同源」のテーマでの講義はとても興味深い内容でした。健全な食生活とは何なのか、患者個別の生活や体の状態を見ながらアドバイスしていくことは、治療家の仕事の欠かせない一部であることも学びました。食べることについての哲学は、あれが良い、これが悪いというような短絡的なお話ではなく、生命全体を地球ごと捉えて考えていくと、自ずから道筋が見えてくるものだと感じています。

ケース分析としては、狂犬病を二例とクローン病を一例、たっぷりと時間をとって取り組みました。もちろんまだまだ大変苦戦はするのですが、1年前に京都でレパートリーを使い始めた時と比較すれば、わずかですが進歩を感じることができました。

新しいレメディとしては、狂犬病のケース・スタディでも登場した「Hyoscyamus」、「Stramonium」、「Hepar Sulfuris Calcareum」と「Silicea」を学びました。これまでに学んだレメディの数はいつのまにか20を越え、似たレメディを関連づけたり、また対比させたり、ルブリックからレメディについて考え直したりすることが、少しずつできるようになってきました。視点を複数持って多角的に学ぶことで、レメディ像がより立体的に立ち現れ、捉えやすくなってきた実感があります。

さまざまなレメディについて、ケースの捉え方について、ルブリックの見つけ方について、セミナーの後や休み時間に気軽に参加者で話し合うことで、学びの世界は大きく膨らみました。あの有名な諺「If you want to go fast, go alone; if you want to go far, go together(早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいなら一緒に行け)」をまさに実感する日々でした。もちろん、早く習得することは良いことでもありますが、マニュアルめいたものとは縁遠いホメオパシーの学びには、表面をなぞって早く進んでいくことよりも、自分の体にしっかりと染み込ませる深さが必要だということ。これは、今回だけではなく、これまで全てのセミナーで繰り返し学んで来たことでした。

梅雨が始まる直前の、心が洗われるような山々の景色と空の色、雨音に包まれて勉強に集中できる時間の喜び、さまざまな鳥の声を聞きながらの朝のタオヨガ、ハーブ・ガーデンの花々を飛び回るミツバチたちの愛らしさ、裸足で地面を歩いてバラの匂いを嗅いだこと。そうした美しい経験の中には、私たち生きるものは全て、この世に生まれてから命を全うするまでにさまざまな季節を通り過ぎていくのだというシンプルな事実があり、その事実こそが私に謙虚な気持ちを、弛まずに学ぶ力を授けてくれているような気がしています。学びの道はまだまだ始まったばかりですが、最初の穂高でのセミナー以来、自分が個人として(遅々とであれ)成長・変化してきたことを実感する瞬間もあり、とても嬉しく思っています。いつも真摯に惜しみなく、さまざまな学びを与えて下さるエルマーさん、一緒に学ぶ仲間たち、穂高養生園の皆さんに深く感謝します。

橋本梓