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インフルエンザ予防接種の賛否(その1)
厚生労働省がインフルエンザ予防接種を「強く推奨する」季節になりました。「高齢者、小児、施設の入所者、介護者、そして医療従事者にはインフルエンザワクチンを接種していただきたいと考えています。」65歳以上の人には、インフルエンザの予防接種に加えて、肺炎球菌ワクチン、新型コロナワクチンとRSVワクチンの積極的な接種も強く推奨すると発表しています。そのため、あらかじめ準備された供給量は昨年度よりも多く、約5,293万回分が確保されているそうです。(PDF)
1週間前、16年前のちょうど今頃に朝日新聞の「私の視点」という欄に掲載された記事を友達に送ってもらいました。筆者は元国立公衆衛生院感染症室長の母里啓子です。

2009年10月10日 朝日新聞
読みやすくするため、出力します。
元国立公衆衛生院感染症室長、母里啓子、私の視点
「19日から新型インフルエンザワクチンの接種が始まる。国立公衆衛生院や横浜市保健所で、予防接種にかかわってきた立場から先月、新型インフルエンザ市民対策会議を立ち上げ、接種に慎重を期すよう、厚生労働省に求めた。
疫学者からみればインフルエンザワクチンは、予防接種の中で最も効かないものの一つだ。インフルエンザウイルスはのどや鼻の粘膜に付き、そこで増殖する。一方、ワクチンは注射によって、血液中にウイルスの抗体を作る。のどや鼻の粘膜表面に抗体ができるわけではないので、感染防止効果はない。
重症化を防ぐかどうかについても、大規模な疫学調査はこれまで行われていない。グループ内で接種者と非接種者の重症度を比べた論文は複数あるが、結論はまちまちだ。
小児の脳症も高齢者の肺炎も、インフルエンザで体力が落ちたところに、解熱剤の使用や食物の誤嚥、細菌感染などという別の要因が加わって起こるもので、ウイルスが脳や肺で増殖して起こるのではない。
インフルエンザウイルスは猛スピードで変異する。同じ型でも流行開始時と半年後では全く違う株になっている可能性が高い。ワクチンで初期のウイルスの血中抗体価が上がったとしても、変異したウイルスがのどや鼻に付けば、感染や発症は避けられない。
以上の原理は新型インフルエンザにも同じようにあてはまる。健康な人ならば、新型インフルエンザにかかっても、死ぬことはまずない。かえって強力な免疫ができる。
感染しても症状が出ない「不顕性感染」も多い。地域や学校ではやったら、症状が出なかった人も抗体を持っている可能性が高く、そういう人にはワクチンは必要ない。
効果が証明されていないにもかかわらず、重い副反応が出やすい妊婦や幼児にまでワクチンを勧める厚労省の方針に、危機感を覚える。かつて社会防衛のために、健康な学童にまで強制接種し、多くの副反応被害を出した愚を繰り返してはならない。今でも毎年、ギラン・バレー症候群や脊髄炎などの重篤な副反応が年後で厚労省に報告されている。7千万人への接種は、大規模な人体実験に等しい。接種対象が広がれば、それだけ副反応の被害者は増える。臨床試験の結果を待たずに、妊婦や幼児への接種、季節性と新型の同時接種などを、「問題ない」と言い切るのは危険だ。
全国予防接種被害者の会では「元気な子どもを予防接種に連れて行った私が悪い」と自分を責め続けている親の姿に、毎年出会う。この悲劇を繰り返さないためにも、不要なワクチン接種といたずらな勧奨をしないことと、接種後の副反応調査、幅広い被害補慣を、国に求めたい。」
母里啓子(1934-2021)は、国内や海外で活躍しながら、いろいろな公的機構で働いた医学研究者でした。当時のWHOの専門委員会メンバーとしても公的に活動しました。彼女の専門分野はワクチン(特に肝炎とインフルエンザ)の有効性と安全性、疫病や予防接種プログラムの社会医学的分析でした。必要があれば、政府や官僚のスタンスや対応を批判することを恐れなかった、人の健康や公衆衛生を第一にしながら、自由で自立した、剛直な研究者でした。ワクチンの賛否についての一般向けの本の著者として、広く知られるようになりました。(出版社のウェブサイト)
母里啓子の学術的な遺産は京都の立命館大学に保管されています。母里啓子の経歴と出版歴もっと知りたい人は、こちらを参照ください。
インフルエンザワクチンの有効性と安全性について、母里啓子の考え方と現在の厚労省のそれとは大きな隔たりがあります。あまり効果がない、安全性が保証されていないと、懸念する母里啓子。一方で厚労省は、いろいろな海外の観察事例を引用しつつ、30-70%の効果を主張して、安全性というテーマについては一言も触れないのです。母里啓子の警告から16年が経ちました。その間、インフルエンザ予防接種についての研究、データや知識は、どのように発展したのでしょうか?それが次回のブログのテーマです。
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